「おい、真魚!」
向かう方向が違う。
嵐は、三諸山に向かうと思っていた。
しかし、真魚が歩き出した方向は真逆。
北に向かった所で一度止まった。
「壱与の祈りの意味…」
「知りたくはないのか…?」
真魚が振り返り態にそう言った。
「祈りの意味だと…」
嵐が食いつくのは分かっている。
真魚の企みがその笑みに現れている。
嵐は人の世には興味がない。
あるのは食い物の事だけである。
その嵐が興味を示している。
これは、非常に稀なことなのである。
「それをこれから確かめに行く…」
真魚がまた歩き始めた。
「壱与のことだ…」
「自分のことは二の次か…」
嵐は壱与の祈りの意味を考えていた。
「俺は聞いておらぬが…」
「お主、あの神と何を話しておった…」
荒ぶる神…
その神を起こしてまで、何かを聞いた。
壱与の願いと無縁ではない。
人の事に疎い嵐でも、それには気がついた。
「熊野の一件…」
「あの続きだ…」
真魚は後ろの嵐に言う。
「あれはあれで…終わりではないのか?」
嵐はそう思っていた。
「全ては繋がっている…」
「そういうことになるな…」
始まりがあれば終わりがある…
そして…
終わりもまた、始まりなのである。
「それに…俺にも関係がある…」
真魚はそう言って、笑みを浮かべた。
「どうして、それとこれが関係があるのだ!」
嵐には理解出来ない。
熊野とはどう考えても結びつかない。
「ひょっとして…今いない奴等もか…!!」
嵐がそのことに気がついた。
「ほう…」
「壱与のおかげで、今日は冴えているな…」
真魚が笑って言う。
「それと、これだ…」
真魚はいつの間にか…
それを右手に持っていた。
「真魚、それは…」
嵐には覚えがある。
「最近、これが気になってな…」
神の一族が持っていたもの…
「この剣が、騒がしいのだ…」
右手に持った剣…
「お主、またなにして来たのか…」
嵐が目を細めて真魚に聞く。
なにとは…
以前、金峰山でしでかしたことである。
「昴や珠婆さんの許可はもらったぞ…」
「それに…」
「扉が閉まった今となっては、もう返すことも出来まい…」
その切っ先を見つめて言った。
「その剣がどうかしたのか?」
嵐には良く分からない。
「では、聞くが…」
「幾つも存在するもの…どれが本物か…」
「それを確かめる方法は…?」
真魚が笑みを浮かべ言う。
「そんなことは俺には分からぬ…」
嵐がその問いを投げ返す。
「では、お主が食べたもの…」
「もし、同じ料理が出て来たら…」
「作った者が誰かわかるか?」
真魚が問題をすり替えた。
「それなら、分かる!」
「誰が作ったかすぐに分かるぞ!」
嵐が自信満々に答える。
「では、この剣という食い物は…」
「本物か、偽物か?」
真魚がそういう聞き方をした。
「食えぬものは、作った奴に聞くしかなかろう…」
嵐にはそういうしかなかった。
「それが答えだ…」
真魚がそう言って笑った。
「本物か、偽物か…」
「それを知ってどうするのだ…」
嵐には先の事が全く読めない。
「それを知りたい者達がいる…」
真魚はそう言いながら、剣を一振りした。
「ならば…教えてやるだけだ…」
次の瞬間には…
その剣は何処かに消えてなかった。
次回へ続く…
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