「ぼちぼち出かけねばならぬ…」
大地の波動が高まっている。
その日の夜が満月である。
結局、美鷺が昴達と行くことになった。
お珠が皆を、謎の式盤の前に集めた。
「そうそう、昴…」
「大切な物を忘れておった…」
お珠が懐からそれを出した。

「これは…」
昴は初めて見る。
だが、それが何かを知っていた。
お珠がそれを昴の手に握らせる。
そして、自らの手で包み込んだ。
「こんな…大切な物…」
王の証。
神の末裔である証である。
向き合う二頭の獣と異国の文様。
この国のもので無い事は確かである。
「それは、ただの物じゃ…」
「本当に必要なものは、他にあるじゃろ…」
お珠が、昴の目を見て言った。
「お婆ちゃん…」
昴の瞳に映るお珠の姿。
それが、揺れている。
「佐伯様も、嵐様もついてなさる…」
「こんな有り難いことはないぞ…」
お珠が昴を見て微笑んだ。
「うん…」
昴が目を閉じると、光がこぼれた。
「心配するだけ無駄じゃ!」
その光を、子犬の嵐が足下で見ていた。
「美鷺婆、本当に大丈夫なの?」
「村まで大分あるわよ…」
舞衣が、美鷺の身体を心配している。
「舞衣、まだまだじゃのう…」
「今、こちらとあちらは繋がっておる…」
美鷺はそう言って、謎の式盤を見た。
「それで、ここなの!」
「おかしいと思ったのよ…」
昴がその事に気付いた。
「ひょっとして…すぐに行けるの?」
「そう言う事になるな…」
昴の問いに、真魚が答えた。
「でも、美鷺婆はどうしてその事を知っているの?」
昴の疑問は他にもあった。
「昔、一度だけ試したことがある…」
美鷺は皆を見た。
「ここにいる連中とな…」
お珠が後に続いた。
「昔はあれに文字など書いてなかった…」
「●やら▲の印だけじゃ…」
お珠が、懐かしそうに謎の式盤を見ている。
「文字は、儂らが後で付け足したものじゃ…」
「場所も今と同じではない…」
「片方は滝の洞窟にあった…」
お珠が皆に説明する。
その場所が別な場所であることは間違い無い。
今はその形が変わっただけだ。
「子供の儂らが見つけ、こっそりと遊んでおった」
「勿論、内緒の話だ…」
乙瑠のその思い出は、楽しげであった。
「お主ら以外と大胆じゃのう…」
嵐が呆れていた。
「曲がりなりにも…」
「使えるようになったのは、美鷺と朱鷺のおかげじゃ…」
「それで、言い伝えの意味が、わかったようなものじゃ…」
子供達の好奇心、無邪気な心。
その心に神は伝えたのだ。
「それがあったからこそ…舞衣の命も繋ぐことができた…」
「それが良かったのかは、分からぬが…」
乙瑠が目を伏せた。
「私は良かったと思っている…」
「皆でこの時を乗り越えて行ける…」
舞衣は一瞬、真魚と目が合った。
そして、すぐに目を外した。
「お前にそう言われると、切ない…」
乙瑠が涙ぐんだ。
「ぼちぼち行かぬと、日が暮れるぞ…」
真魚は何かを感じていた。
「どうすればいいの?」
舞衣が美鷺に聞いた。
「あれに、手を当てて念じるのじゃ…」
「ただ、それだけじゃ…」
「簡単なものじゃ…」
美鷺が笑って答えた。
舞衣が謎の式盤の上に手を置いた。
目を瞑ると光が溢れ出した。
その光が皆を包んでいく。
「行かぬものは下がれ…」
お珠達が退いた。
光が消えた後には、謎の式盤だけが残されていた。
「後は頼んだぞ…昴、舞衣…」
お珠と乙瑠は、二人の孫に全てを委ねていた。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-