清野が岩戸に向かっていた。
付き人は清野の機嫌を損ねまいと、少し距離を取っていた。
清野は、何かに取り憑かれた様に歩いている。
「おい!」
清野が岩戸の近くまで来たとき、付き人を呼んだ。
「あれは…なんだ…」
木が枯れて、灰のようになっている。

「木が…枯れているのかと…」
付き人も初めて見る出来事だ。
そう答えるしかなかった。
「あの黒い霧のせいか…」
清野は、直ぐにそれらを結びつけた。
「そうなると…余計に気になるな…」
清野は、全ての事実を確かめたくなってきた。
今、一体何が起きているのか…
それらは、清野の想像を超えていた。
枯れた木を目の前にしても…
何をどうすれば、こうなるのか…
その理由さえわからなかった。
「清野様ではござりませぬか?」
後ろから声がした。
清野がその声に振り向くと、そこに直人が立っていた。
左腕に呉羽を乗せている。
「直人か!」
清野が思わず声を出した。
直人の変化を、清野は感じ取った。
それは畏れでもあった。
直人が放つ波動。
それを、清野は感じ、畏れたのだ。
『何故だ…』
清野は葛藤した。
認めるか…認めないか…
受け入れるか…受け入れないか…
その事実に、清野の心が戸惑っている。
直人の変化を受け入れる。
それは、近い未来…
自ら立てた策が失敗すると言う事だ。
だが、それは既に起き、始まっている。
問題は、自らが受け入れるか、拒否するかだけであった。
『だが、なぜわかったのだ…』
清野の中にもう一つの疑問があった。
理由はわからない。
だが、直人の変化を感じたのだ。
得体の知れぬものとして…
そして、それは結果的に間違ってはいなかった。
「いかがなされました?」
直人が立ち止まったままの清野に声をかけた。
「いや、岩戸の木が…変だ…」
清野は話を誤魔化した。
「昨日、封印が破れたようです…」
直人はそれを確認していた。
「封印?何だそれは…」
「詳しくは分かりませぬが…」
「岩戸は、古よりそう言う所であったようです…」
直人は、清野の問いにそう答えた。
破れた封印、黒い霧。
清野の中で、それらが繋がっていく。
「それで、封印はどうなったのだ…」
清野の頭の中では、事実が朧気に見えて来た。
「佐伯様が…また封じたとか…」
「佐伯様…あの男か…」
清野の中で、組み上がる事実があった。
「嘘では…なかったのか…」
清野はほくそ笑んだ。
「何か?佐伯様に…」
直人は、その笑みを怪しんだ。
「いや…」
清野が誤魔化した。
今考えた事が事実だとしたら、朝廷の一大事となる。
だが、それはあの男が一度口にしている。
「田村麻呂の手柄ではなかった…」
清野は、田村麻呂の弱みを握ったような気がした。
「私は、呉羽の訓練に向かいます…」
直人はそう言って、山の方に歩いて行った。
「あれを見たからか…」
黒い霧を見て、感じてから、何かがおかしい。
清野は、自らの変化に戸惑っていた。
「清野様…あの男です…」
付き人が言った。
岩戸の崖の側、高台に人影が見える。
「来ることを、知っていたのか…」
「どこまでも、酔狂な奴だ…」
清野は、真魚の姿を見て笑っていた。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-