弦が、浜に敷き詰めていた海草を集め始めた。
真魚は、その作業を見ていた。
聡真が帰ろうとすると、そこに那海が現れた。
「那海、お前どうしたんだ…」
聡真は那海の行動に驚いた。
弦の小屋の方向で、あれを見た。
だからと言って、弦を心配するような妹ではない。

「ちょっと、気になって…」
「気になってって、あれの事か…?」
聡真の考えとは裏腹に、何かが変わり始めていた。
「弦は…大丈夫だったのね…」
海草を集める弦の姿を、那海が確認した。
「あれっ…?」
那海は真魚の存在に直ぐ気付いた。
「あの人…さっきの…」
「そうだ、佐伯様だ…」
「佐伯様って、あの佐伯様?」
那海は、聡真の言葉が、信じられないでいた。
薄汚れた着物。
付き人も付けずに、子犬を連れている。
そんな貴族など、那海の頭の中にはない。
「それでか…」
真魚にもらった銀の粒、庶民が持つものではない。
「どうして…こんな所にいるのよ?」
那海の常識を…外れている。
その事実が、逆に真魚への興味に変わった。
それだけでは無い。
真魚の持つ、人を惹きつける何か…
那海は、それも感じていた。
「細かい事情は知らないけど、旅をしているらしい…」
「旅って、荷物がないじゃない…」
「えっ!そういえば…」
聡真は、那海に言われるまで、気付かなかった。
だが、那海はその不自然さを、直ぐに見抜いた。
「私、聞いてくる…」
「那海、こらっ!」
聡真が止める間もなく、那海は真魚の元へ行った。
動き始めた好奇心は、もう止められない。
「佐伯様、先ほどはどうも…」
那海はそう言って、真魚に近づいた。
十四、五歳の娘にしては、大した度胸である。
「聡真の妹か、那海とか言ったか…」
「妹の那海です…」
後を追って、聡真が申し訳なさそうに近づいて来た。
「すみません…出しゃばりな妹で…」
「誰が出しゃばりよ!」
那海は、聡真を睨んだ。
「俺もちょっと、話をしたいと思っていたんだ…」
「えっ、私と?どうして?」
真魚が興味を持っていた。
那海には意外であった。
「知り合いに、そっくりな娘がいる…」
「双子が、生き別れになったのかと思うほどだ…」
「生き写しと言ってもいい…」
ないとは思うが、可能性は否定できない。
本人が知らない事実も存在する。
「私と…そっっくりな…娘」
那海はきょとんとした顔で、その話を聞いていた。
那海には全く関係がない話だ。
「丁度、歳も同じ頃だ…」
真魚は、真剣な顔で、那海を見た。
「そんなに見ないでよ…」
真魚に見つめられ、那海の頬が赤くなった。
だが、真魚が見ているのは姿では無い。
その奥にあるものだ。
国を動かすほどの霊力を、片方の娘は持っている。
もし、その力がこの娘に眠っていたら…
真魚の中に一つの疑念があったのだ。
「どうやら…思い過ごしのようだ…」
真魚が、那海にそう言った。
「思い過ごし…?」
その言い方が、那海は気になった。
「その娘…何かしたの?」
那海は、もう一人の自分に興味を抱いた。
「この時代で無ければ、国を動かしたかも知れぬ…」
真魚の答えは、那海の想像を超えていた。
「国を…動かす…」
那海には、途方も無いことであった。
「那海は、九をどう思っている?」
突然、真魚が那海に聞いた。
これも、意外な質問であった。
「あんなものに、興味は無いわ!」
「あんなものって、九は可愛いぞ、それに、頭もいい!」
聡真が、那海の考えを否定した。
「お兄ちゃんみたいに、話はしたくないって言っているの!」
「話せるということだな…」
真魚が、その事実を告げた。
「そうなのか?那海…」
聡真が驚いていた。
「何となくよ…そう感じるだけ…」
那海は全てを否定しなかった。
「やはりそうか…」
どこからか声がした。
那海の足下で、子犬が寝転んでいた。
「壱与には及ばぬが…お主も捨てたものではないのう…」
きゃぁーーーーっ!!!
那海が悲鳴を上げた。
「い、い、犬が喋った!い、い、今、犬がしゃべったよ!」
青ざめた那海とは裏腹に、皆が笑っていた。
海草を集めている弦も、笑っていた。
「犬ではない、俺は神だ!」
子犬の嵐がそう言った。
「か、神様!!!」
嵐の言葉が、更なる混乱の渦に誘う。
だが、驚きもしない聡真。
それで那海は気がついた。
「に、兄ちゃん!知ってたの?」
「お前のそんな顔を見るのは初めてだよ!」
聡真が笑っていた。
「ずるい!」
知らなかった事実に、弄ばれた。
那海が顔を真っ赤にして怒っていた。
「それでか!!!!」
突然、那海が声を上げた。
「付き人なんか、いらないわけだ…」
いらないどころか、むしろ邪魔だ。
「面白いわ…」
那海のその言葉に、聡真は嫌な予感がしていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-