「菜月!逃げろ!」
谺が叫んだ。
菜月への想い…
谺の波動が、次元の膜を伝わっていく。
菜月が谺を見た。
菜月がそれを受け取った。
谺のすぐ後ろまで水が迫っていた。
「谺!」

「早く!こっち!」
菜月は谺を気にしながら、母と子の親子と逃げた。
水はかろうじて、菜月の足下で止まった。
だが、菜月は谺の姿を見失った。
「谺!!!」
「谺!谺!どこなの!」
菜月は声の限り叫んだ。
だが、谺の姿は見当たらなかった。
「菜月!」
嵐が飛んで来て、菜月を拾った。
菜月の波動を、嵐が感じ、受け取った。
真魚がその手で、菜月を抱き上げた。
「谺が!谺が流された!」
「谺を見つけて!お願い!」
菜月の心の叫びは、二人に届いている。
「今の菜月になら、分かるはずだぞ…」
真魚が菜月に言った。
「谺を感じてみろ…」
「でも、どうやって…」
菜月が戸惑っている。
「桜は感じたのだろう?同じ事だ…」
嵐が言った。
「そうか!」
菜月は目を閉じた。
波動の翼を広げた。
次元の膜に触れる、谺の波動を捜した。
「谺?」
「谺…」
「嵐、あっち!」
菜月が指を指した。
嵐が飛んだ。
「いた!」
谺が流されていた。
だが、意識は無い。
嵐が咥え、真魚が引き上げた。
真魚が谺を看る。
「大丈夫だ、命に別状は無い」
「よかった…」
菜月の瞳から光がこぼれた。
谺の声が無ければ、菜月も流されていた。
「どこまで…馬鹿なのよ!」
気を失っている谺に、しがみついて泣いた。
大切なものを失いかけた。
菜月は、そんな自分を責めていた。
「神は、人の生死に関わってはならぬ…」
「その意味が、分かるな…」
嵐が菜月に言った。
「この責任は、菜月にとって貰わぬとな…」
真魚が笑って言った。
「うん!」
菜月が顔を上げて、涙を拭った。
菜月の耀きが、谺を包んでいた。
「契約成立だな…」
嵐は、その耀きの尊さを感じていた。

村人達が呆然とその光景を見ていた。
田や畑のほとんどが水に浸かってしまった。
泥の川が家を流していった。
これだけの惨事にもかかわらず犠牲者が出なかった。
「真魚がいなかったら…」
桜はその光景を見てつぶやいた。
「全て流された…終わりだ…」
村人の一人が言った。
「何を言っておる…生かされたのじゃ…」
「未来は、お主らを選んだのじゃ…」
たきが真実を語った。
「みんな、これを見て!」
桜と睦月が何かを持ってきた。
幾つかの袋に分けられていた。
「こ、これは…」
村人の目に、涙が浮かんでいた。
「大丈夫、まだ、希望はある!」
桜が言った。
おおおお~
村人達がどよめいた。
「まだ、できるのか…俺たち…」
皆がそう感じた。
「大したお人だ…」
「命だけでは無く、希望も与えた…」
たきがつぶやいた。
桜は未来を見ていた。
「命の種よ…」
「大切に使わないと…」
菜月と二人で必死に集めた。
「そうか!」
はははっ…!
「命の種か…」
ははっ…
桜が、突然笑い出した。
手の平で、命の種が輝いている。
「私達が…間違っていたんだ…」
その耀きが、桜に何かを伝えていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-