嵐が飛んだ方向は蓮の国とは違う方向であった。
夕焼けの空を一筋の光が抜けて行く。
「どこにいくの?」
蓮は何となく帰路ではないことに気づいた。
「蓮に見せたいものがある」
嵐はその場所まで一瞬で飛んだ。
村があった。
蝦夷の村だ。
「ここは…」
蓮が赤く染まるその村を見ていた。
「きれいだ…」
蓮はそう感じた。
嵐はある家の前に降りた。
一人の女性が立っていた。
子供を抱いている。
ここにも命の絆はある。

「あらっ、今日はどこの子?」
その女性は笑っている。
「紫音、子供は元気か?」
嵐がそう言った。
「久しぶりなのに、私の事は心配してくれないのね」
紫音が抱いている子供に言った。
「蝦夷の村?」
蓮が聞いた。
「そうだ、蝦夷の村だ」
真魚が答えた。
気がつくと嵐は子犬の姿に戻っている。
「嵐、お腹空いているんでしょう?」
紫音には見抜かれている。
「あなたのことは何でも分かるんだから…」
苦しい時を切り抜けた信頼がそこに存在した。
「ばれておったのか…」
嵐が紫音の感度に呆れていた。
「さ、入って、母礼も待ってる」
がたん!ばたん!
その前に 戸が開く音がした。
「お~!真魚に嵐、よくぞ来たな!」
母礼が堪らず飛び出してきた。
「ちょっと、戸が壊れるでしょ!」
「何だ、もう尻に敷かれているのか?」
子犬の嵐が呆れている。
「ここに来たのはそのためか…」
真魚が嵐に呆れて笑っている。
「決まっているだろ!」
嵐の答えに曇りはない。
「いっぱい用意してあるわよ!」
「ほらな!」
紫音の声で嵐は家の中に飛び込んでいった。
手の平に輝く大きな目。
「その目で獲物を探し当て、見抜くのか?」
後鬼は百目鬼の力をそう見ていた。
「うちは感じる事はできるが、お主の様には食わぬ」
後鬼の食事は人と変わらない。
どちらかというと百目鬼の方が特殊と言える。
「柊が最後になるな…人に逢ったのは…」
既に二十年ほど時は過ぎていた。
「では、もう人から物は奪ってないのか?」
後鬼は百目鬼のその言葉から、今の状況を想像していた。
「あのくそじじいのせいだ!」
いつの間にか、くそ爺に変わっている。
「その坊主が何かしたのか?」
後鬼はその答えを知りたくなった。
百目鬼が人を襲わなくなった。
それほどの何かがあると言うことだ。
「あのくそ爺があれを持っていたのだ」
百目鬼の答えは意外であった。
「坊主が…持っていた…?」
「纏わり付くものか…」
後鬼は考えた。
「そうだ!」
百目鬼が見たものは複雑に絡み合うものであった。
「お主はその坊主に惚れたのか…」
後鬼は坊主に纏わり付いているものを想像した。
「惚れただと、ばかばかしい」
「だが、あれ以上のものは見当たらん…」
百目鬼がそう言った。
「ほどいてみたい…」
「食ろうてみたい…」
百目鬼の美しい顔が色めく。
「こりゃ、惚れた意味が違ったか…」
後鬼が自分の過ちを認めた。
「おやっ!」
後鬼が何かに気づいた。
「坊主が…持っていた…」
「もしや!」
後鬼はそのことに気づいた。
「吸い込まれそうなほど、うまそうであった…」
百目鬼が思い出しながら頬ずりしている。
はははははっ!
突然、 後鬼が百目鬼の様子を見て笑いだした。
おかしくてたまらない。
「どうしたのだ?急に…」
百目鬼が戸惑っている。
後鬼の笑いはしばらく止まらなかった。
「はははっ…それ以上の…物を…」
後鬼がようやくその声を絞り出した。
「あるのか…!」
さらに百目鬼の顔が艶っぽく色めく。
「うちは大きな勘違いをしていたようだ…」
後鬼の笑いは、まだ続いていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-