「では、早速出かけるか!」
子犬の嵐は気が短い。
家の外で嵐が霊力を開放した。
風が巻き起こった。
嵐の霊力で大気が揺れる。
金と銀の巨大な山犬。
その背中は人の背丈ほども有る。
「すごい…」
華はその光に感動していた。

「本当に神様っていたんだ…」
「言っておくが神にもいろいろいる…気をつけぬとな」
後鬼が華に釘を刺している。
「あなたたちは一体…」
柊は全てを知りたがっている。
見ず知らずの者を助け、導いて行く。
「あの男はただの世話好きじゃ…」
後鬼が何となく真魚のことを説明した。
「行くぞ!」
真魚と蓮が嵐の背中に乗った。
その声が聞こえた時にはその姿はなかった。
「と、飛んだ…すごい…」
華の感動はまだ続いていた。
「ところで…」
家の中に戻ったところで、前鬼が話を切り出した。
「お主、儂らを見たことがあるのか?」
柊の様子から前鬼がそう感じたようだ。
「いえ、そう言うわけではございません」
「では、儂らに似たものを知っておるということじゃな…」
柊の答えを後鬼はそう解釈した。
「ええ…」
柊はそう言ってうつむいた。
「あれは私がまだ幼い頃の話でございます」
「丁度、華ぐらいの年頃だったと思います」
「山に山菜採りに出かけた時、夢中になり道に迷ってしまいました」
「その山で鬼に出会ったのです」
「最初は人だと思っていました」
「苦しそうにうずくまっていたので、近寄って話しかけました」
「顔を上げるとそれは女の鬼でした」
「怖かったですが、もうどうにもなりません」
「すると鬼はこう言うのです」
「何か食べ物をくれと…」
「私は持っていたおにぎりを一つ差し上げました」
「すると、鬼はたちまち元気になり、お礼にこの薬をくれたのです」
そう言って柊は後鬼にその薬を見せた。
「なるほど…そう言うことか…」
後鬼はそれを見るなり全てを理解したようだった。
「困った事があれば、念じてそれを飲めと言ったのか…」
柊は後鬼の言葉に黙って頷いた。
「鬼は何処かの術士に縛られておったのだな…」
「その術をお主が解いたのだ…」
後鬼が柊の話を解きほぐす。
「人の好意に触れたとき、その縛りは解けたのだ」
「ま、何か良からぬことをしでかしたのであろうな…」
「だが、こうも言わなかったか…」
「命に代わる出来事が起こったときだけ…」
「そういえば…」
柊はそのこと忘れていた。
「お主は大事なことを忘れておったようじゃな…」
後鬼はそう言って考え込んだ。
「ま、とりあえずこれを飲んでおけ…」
後鬼はそう言って小さな器を差し出した。
「これは…水…」
「なんて美しい…」
器の中に輝く水が入っていた。
「真魚殿はそのためにうちらを呼んだのじゃ」
「これを…私に…」
柊は恐る恐るそれを飲んだ。
「美味しい!なんて美味しいの!」
「身体が喜んでいる…」
柊の身体に生命が染みこんでいく。
それが手に取るようにわかる。
「それは理水じゃ、うちが創る究極の水じゃ」
後鬼は自慢げにそう語る。
だが、それは本当の話だ。
「これで、しばらくは大丈夫じゃ」
後鬼がそう言って柊の背中をたたいた。
「痛っ」
柊が顔をしかめた。
「あっ!」
「気づいたか…」
「しばらく前までは痛みも感じなかった筈じゃ」
「半分死んでおったからな…」
後鬼は既に柊の病を理解している。
「この痛みは生きているってこと…」
柊は想いもしなかった。
「当たり前じゃ」
「ついでに言っておくが、美味しいも同じじゃぞ」
後鬼は笑ってそう言った。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-