「母ちゃん!」
蓮のその声で目が覚めた。
気分が良かった。
「私…どうしたのかしら…」
「この人が助けてくれたんだ」
蓮が横にいる真魚を紹介した。
「ありがとうございました」
そう言って起き上がろうとした。

身体が軽い。
思わず腹を押さえた。
「あれっ」
有るはずのモノがそこにはなかった。
「やはりそうか…」
真魚が呆れたように母親に言った。
「悪いが少し覗かせてもらった」
真魚がそう言って胸を指さした。
「母の柊と言います…」
頬を赤らめ柊がそう答えた。
解かれた帯、少し乱れた着物。
どうやらその言葉の意味を取り違えたらしい。
だが、心を覗かれたと考える者はまずいない。
そう思われても仕方が無い。
直ぐに華が飛び込んできた。
母の胸に抱かれて華が泣いている。
それを見た蓮も目に涙を浮かべていた。
「いや、そうでは…」
真魚のいい訳は華の鳴き声で消えた。
「俺は佐伯真魚だ、そこの子犬が嵐だ」
母の柊は楓の頭を撫でながら頷いた。
真魚の声が柊に届いているかはわからない。
「あら、かわいい子犬ね」
さっきまで華と遊んでいた嵐は、完全に放置されている。
「犬ではない、俺は神だ!」
嵐が喋った。
それは柊が嵐と関わりを持つと言うことでもある。
「犬が…」
柊は開いた口が塞がらない。
「だいたい、お主らは俺様を形として捉えるからそうなるのだ」
毎回同じ説明をする事に嵐が苛立っている。
「この溢れる霊力がわからぬのか…」
そう言って人の愚かさに呆れている。
形に囚われると大切なものを見失う。
嵐は遠回りにそう言うことを言っているのであろう。
「身体の異変に気づいていたのか…」
真魚が柊を見て言った。
「はい…」
柊には思い当たることがあるようだ。
「今更言うのも何だが、人はいつか死ぬ…」
真魚の言葉に皆が凍り付いた。
「母ちゃん死んじゃうの?」
華が顔を上げた。
「そう言う意味ではない」
真魚はやりにくそうだ。
「いつかは死ぬが、死に急ぐことはないと言っているのだ」
「はい…」
柊はその言葉を噛みしめているようだ。
「そなたは母親だ」
真魚はそう言って笑みを浮かべた。
「あなた様は…一体…」
柊は小さくなったお腹のモノに触れた。
まだ生きられる。
柊は華を抱きしめ、 その喜びに包まれていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-