母の意識はまだ戻らない。
それでも華は取り乱す事はなかった。
小さな子供である。
その事実は有り得ない。
予期したことが起こった。
華は予めこの事を知っていた。
それ以外には考えられない。
真魚が来て、母を助けることも分かっていたことになる。
「黑が言ったの…」
華が言った。
「華は知っていたのだな…全部…」
真魚が華の頭を撫でた。
その瞬間…
華の瞳から涙がこぼれ落ちた。

華の心が揺れている。
波動が乱れている。
真魚に包まれ張り詰めていた何かが切れた。
真魚は座って右の手を母の腹に当てている。
残った左の手で華を抱きしめた。
「黑と話せるようになったのも同じ頃か?」
華の耳元で真魚が言った。
華は小さいながらもその事実に向き合っていた。
例え、助かると分かっていても、その不安は華の心を締めつけていたのだ。
華は泣きながら頷いた。
母と子の想い。
真魚の手を通して繋がっている。
「あっ…」
華が声をあげた。
「わかるのか…これが?」
華の反応を真魚はそう受け取った。
母の中に潜むモノ。
それは華とも無縁ではない。
母が自らの意思で閉じ込めた。
その反動で母の身体が悲鳴を上げている。
しばらくすると蓮が牛小屋から帰って来た。
泣いている華を見て不安がよぎった。
「安心しろ、大丈夫だ」
嵐にしては珍しい。
人のことなど気にしない。
その嵐が蓮に声をかけた。
母の顔に安らぎが戻っていた。
幸せそうな寝顔であった。
倒れたときの険しい表情はそこにはない。
「だが、治った訳ではないぞ…」
嵐が蓮に言い聞かすように話す。
「真魚がとりあえず対処をしただけだ…」
「とりあえず…」
蓮がその言葉に囚われた。
子供でもそれくらいはわかる。
このままではいけない。
その言葉の裏に隠されている事実。
蓮は不安を感じていた。
華の心は母と繋がっていた。
母の中にあるモノを見ていた。
黒いモノがうごめいている。
華はそれを何処かで見たような気がした。
それが母の生命を食べている。
華はそう感じた。
気がつくと、目の前に金色の粉が舞っていた。
「きれい…」
華はそれを手の平で受けた。
身体はない。
心象が創り上げたものだ。
「温かい…」
華はそう感じた。
すると…
目の前の黒い塊が小さくなっていく。
「どうしたの?」
華は小さくなる黒い塊を哀れんだ。
それが、母を蝕む原因。
そうだったとしてもその気持ちは変わらなかった。
「なるほどな…」
真魚の声がした。
「おじちゃん…いるの…」
華はその声に包まれていた。
「見ている…」
真魚はそう答えた。
気がつくと黒い塊は米粒の様に小さくなっていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-