真魚の中では既に段取りは出来ているようだった。
「夜だな…必ず見に来る…」
真魚はその未来を見ている。
「お主の屍を見れば死んだと思うはずだ…」
「俺はこの通り生きているぞ…」
紗那はその両手を広げた。

「偽物でいいではないか…」
前鬼が笑っている。
「血のついた着物もまだ残っている…」
後鬼がその方法を紗那に伝えようとしている。
「夜に屍をじっくり見たいと思う者もいまい…」
真魚が笑って言う。
「なるほど…」
紗那が納得している。
「だが、俺はその後、死んだことになるのだろう…?」
「どうやって生きて行けば良いのだ…」
貴族という仕組みに飲まれていた。
その紗那に、他の道は思い浮かばない。
「俺が見せてやる!」
嵐が紗那に言った。
「子犬のお主が、何を見せてくれるというのだ…」
紗那の言葉が嵐の琴線に触れる。
「俺は犬ではない、神だ!」
嵐がそう言うと霊力を開放した。
その力で大気が舞い上がる。
巻き起こる風が森の木々を揺らす。
紗那が反射的に腕で目を守る。
嵐の身体が輝いている。
金と銀の美しい縞模様が輝いている。
気がついた時には紗那の顔を見下ろす嵐が立っていた。
「こ、これは、どういうことだ…」
紗那が驚いている。
口が開いたまま閉じない。
「だから言ったであろう、俺は神だ…」
嵐のその姿を見て、紗那は始めてその事実を受け入れた。
「まだ、夜までには時間がたっぷりある…」
「長い散歩になるな…」
真魚が笑って嵐を見た。
「世界の全てを見せてやる!」
嵐が真魚に向かってそう言った。
「最近、お主も少々お節介になったのぉ…」
後鬼が嵐を窘める。
「俺は、誰ぞのように倒れはせん…」
嵐は後鬼の言葉を真魚に向けた。
「確かに…そうだ…」
嵐はそこまで無茶はしない。
その事実に前鬼が笑っている。
「いくぞ!」
嵐が声をかけた。
「その前に…」
後鬼が紗那に視線を向けた。
「鈍い奴だ…」
後鬼がため息をついた。
「着物を脱いで行かぬか…」
紗那に向かってそう言った。
「全部か…」
紗那には少しためらいがあった。
「これを履くと良い」
真魚が袴を紗那に投げた。
「お主の身代わりを作るのだぞ…」
後鬼が紗那にその旨をを伝えた。
「仕方ない…」
紗那はそう言ってその場で着替えた。
「これで良いか…」
紗那は脱いだ着物を後鬼に渡した。
「ちょっと大きいなぁ」
真魚の着物は紗那にとっては大きい。
「男は細かいことにこだわるな」
後鬼がそう言って、女である紗那の背中をたたいた。
「そ、そうだな…」
紗那は照れくさそうに笑っている。
「乗れ!」
嵐が背中を顎で示した。
「大丈夫なのか…」
紗那が畏れている。
「俺を誰だと思っているのだ…」
嵐が笑っている。
真魚が先に飛び乗り、手を差し出した。
「来い!」
その言葉は紗那の未来だ。
紗那はその手を掴んだ。
紗那はその時、自らの未来をつかみ取った。
「行くぞ!」
嵐の霊力が上がった。
押された大気が風を起こす。
「すごい!」
紗那がそう言う間に地面が遠く離れていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-