「どうだ!一度、死んでみるか…」
真魚があっさりとそう言った。
「簡単に言うなぁ…」
残された思いが紗那の心を揺さぶっている。
「俺の命だぞ…」
紗那は真魚の言葉に揺れている。
「本当に命は取らぬ…」
真魚が笑っている。
「では、こう言うか…」
「生まれ変わってみるか…」
真魚はそう言い替えた。

「生まれ変わる…」
本質は変わらない。
言葉が変わっただけだ。
だが、その言葉が紗那の心に染みこんでいく。
「生まれ変わる…そうか…」
「もう姫には会えぬのだな…」
紗那が想いを募らせている。
「会えないと思うと、会いたくなるものだな…」
紗那は姫の姿を想い浮かべていた。
「それはお主が選ぶ事だ」
真魚は紗那に言った。
「生きて行こうと思えばどこでも生きて行ける…」
「家などと言う柵を捨てれば済むことだ…」
紗那は真魚のその言葉を噛みしめている。
家という柵がなければ、二人で生きて行けたかも知れない。
だがあったとしても捨てれば済むことだ。
だが、出来ない。
その柵の中で生きているものが大勢いる。
「全てのあるものは自分が認めてきたものだ」
「それを捨て去ればいい…」
「そうすれば、生まれ変わることが出来る…」
「あるかなしかは自分が決める事だ…」
言葉が染みこんでくる。
紗那の心に染み渡っていく。
「この国の仕組みが人を生きにくくしている…」
前鬼がその元凶を示す。
「何もかも倭が勝手に作り上げたものだ…」
後鬼はこの国の過去を見てきた。
「大昔、この国はもっと豊かであった…」
「言っておくが、ものではないぞ」
「こころか…」
前鬼の言葉の意味を紗那も感じ始めている。
「そうか…」
紗那は思い出していた。
身体に纏わり付く光の粒…
「あれは純真な心なのか…」
「穢れ無き無垢な心…」
「待てよ…」
「あれが…魂…なのか…」
「だとすると心は何だ…」
突然、紗那の思考の中に飛び込んでくる意思。
あの時感じたものが、紗那の中で今、動き始めた。
紗那の瞳に涙が溢れている。
「どうして…俺は…泣いている…」
思考と心が一体化している。
陰と陽の渦が生み出す波動。
「何故、涙が止まらない…」
紗那はその理由が知りたくて堪らない。
「それが生きている意味だ…」
真魚が言った。
心が震えている。
自ら生み出した光の渦が、自分を飲み込もうとしている。
手が震えて涙が止まらない。
「俺は…感動しているのか…」
紗那が泣きながら震える両手を見つめている。
「紗那、見てみろ…」
真魚のその言葉で紗那が顔を上げた。
光の渦の中に幾つもの光の玉が揺れていた。
紗那の波動を受け取っている。
紗那にはそれが何であるかがわかる。
「そうだったのか…」
「そうだったのだな…」
紗那は自分に確認するようにそう言った。
「心の扉を開く鍵…」
後鬼がそうつぶやいた。
「俺には必要ない…」
嵐がそう言った。
「だが、人には誰にでもある」
前鬼が笑っている。
紗那はその光の鍵を、両手の中に握りしめていた。
そして、それを抱きしめた。
愛しき我が子のようにその胸に抱いた。
光の玉はやさしくそれを見守っていた。
時が流れた。
そう感じただけなのかも知れなかった。
気がつくと光は消えて見えなくなっていた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-