川の側を歩きながら颯太は考えていた。
「これで、良かったのかな…」
川幅が広くなっている。
このまま川に沿って行けば必ず海に行く。
迷うことはない。
だが、夕焼けがその日の終わりを告げている。

「あれ…」
さすがの颯太も少しおかしいことに気がついた。
自分だけならここまで来られる。
だが、状況は違う。
これだけの小さな子供を連れて、ここまで歩くのは無理だ。
「颯太、今日はここまでよ!」
凪の声が聞こえた。
「今日はお外で寝るの?」
楓が凪に聞いている。
「そうよ!明日、朝早くに出発よ!」
凪がそう言うと子供達がはしゃいでいる。
「姉貴、歩くの…早すぎないか?」
颯太が凪に先ほどの疑問を投げかけた。
「あんたも気づいたの…」
凪はそう言い返した。
「姉貴は知ってたんだ…」
「当たり前でしょ、私を誰だと思っているの?」
凪はそう言って鈴鹿御前に顔を向けた。
「御前様…の…」
「それより食事の準備よ!」
子供達は疲れている。
今大切な事は水分と栄養補給だ。
幸い川の側である。
水は沢山ある。
「姉貴、俺は魚を捕ってくる!」
颯太が背中で眠っていた子供を凪に預けた。
「颯太、あまり遠くに行くんじゃないよ!」
「ほんと…大きくなったわ…」
凪は少し誇らしげに颯太の背中を見ていた。
「この子達をちょっとどうにかしないと…」
凪は背中の子供と颯太から預かった子供を、草の上に寝かせた。
「楓、梢、ちょっとこの子達を見ていてちょうだい!」
二人の女の子を呼んだ。
「せっかく遊ぼうと思ったのに…」
「まだ遊べるの?あなたたちは本当に元気ね!」
「ちょっとだけ見ててね!」
小さくても女の子には母性がある。
そう言うと凪は鈴鹿御前に駆け寄った。
「御前様、大丈夫ですか…?」
凪は鈴鹿御前の体調を気遣う。
「後鬼の水がある、心配するな…」
まだ水は残っている。
それは後鬼の心遣いでもあった。
「それより、凪、これを…」
そう言って鈴鹿御前は懐から何かを出した。
布のようなものであった。
「これは…」
凪にはただの布に見える。
普通の布と違うところは色が金色であることだ。
「真魚から預かったものだ」
鈴鹿御前はそう言って広げた。
「その端を持って広げてくれ」
鈴鹿御前の指示通り持って広げた。
「そのまま後ろに下がれ…」
凪は言われるままに下がった。
「あれ!」
凪が有り得ない事実に気がついた。
「これはこういうものだ…」
鈴鹿御前がそう言っても、凪には信じられない。
最初は両手を広げたぐらいであった。
それが言われるままに下がると、その大きさになった。
「片方の端を、そこの木の枝に結べ…」
凪は言われた様にした。
「もう片方を持って引っ張れ…」
指示通りにすると布がさらに広がった。
「これでいい!」
斜めになった布の屋根が出来た。
これだけあれば皆が入れる。
「こんな事って…」
凪は目を丸くして驚いている。
「凪、子供達をこの中に…」
鈴鹿御前に言われてその意味に気づいた。
「そう言うことか…」
「みんな~こっちに来て!」
凪の声で子供達がそれに気づいた。
「わ~!家が出来てる!」
直ぐに子供達は集まって来た。
珍しいからではない。
凪は気づいている。
それはこの布から出ている波動だった。
子供は大人が忘れたものをまだ覚えている。
無意識にこの布がどういうものであるか、分かっているのだ。
「この感じ…」
何かに包まれているような安堵感。
布の下は別の世界だ。
子供達も一度入ったら出ようとはしない。
「それは…そうよね…」
凪は子供達を見てそう思った。
どんなに笑っていても不安なのだ。
「この布がなかったら…」
この不思議な布のおかげで子供達は安心している。
鈴鹿御前もその波動で守っている。
二つの心が子供達を包み込んでいるのだ。
「あの…男…」
凪の心が揺れている。
「姉貴、これすごいな!」
颯太が沢山の魚を持って帰って来た。
草を魚のえらに通して束にしている。
「遠くから見ると見えないんだ」
布の家に驚いている。
「そうなの?」
凪は驚いて外から見てみた。
布に廻りの景色がほんのり映り込んでいる。
「ほんとだ…不思議な布ね…」
凪はそう言って微笑んだ。
そして、その持ち主を思い浮かべていた。
「姉貴、火を起こしてもいいかな…」
「その辺りでなら、いいぞ!」
凪に言ったつもりが鈴鹿御前聞こえた様だ。
流木を集め直ぐに火を起こし始めた。
木と紐を巧みに使っている。
紐以外は全て河原に転がっていたものだ。
煙が出た。
颯太は枯れ草をそっと近づける。
火がついた。
少しずつ火を大きくしていく。
その頃には魚たちが棒に刺さって立っていた。
それは子供達の仕事だ。
魚が焼けるまでそれほど時間はかからなかった。
「いい臭い~」
子供達が火の周りに集まっている。
凪は夕闇を見ていた。
「薄暮…」
「始まったか…」
凪のつぶやきの後に鈴鹿御前がそう言った。
「始まったの…」
暗くなる西の空が凪の心を映していた。

続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-