「たのしかった~」
都でした様々な体験。
初めて大勢の人前で笛を吹いた。
直ぐに人は集まってきた。
その音色に人は魅了された。
泣いてる者もいた。
華音の姿に最初は戸惑っていた。
特に子供は正直であった。
だが、その素直さが華音の閉ざした心を開いていった。

「おねえちゃん、すごい!」
誰もが初めて聞いたという。
自分にとって日常の一部であったものが、
こんなに喜ばれるとは想像もしていなかった。
昔、音楽は神に捧げるものであった。
日常に音楽が存在する事など、希であったに違いない。
「そろそろ帰ろう」
真魚のその一声で帰路についたが、
都で過ごした時間は夢の様であった。
幸い真魚が貸してくれた布のおかげで身体は無事であった。
「肉がないのは残念じゃなぁ」
嵐が文句を言いながら食べている。
「猟師でもない限りそうそう手には入らん」
真魚は呆れている。
「鳥ならあるけど」
見かねた華音が気を利かせた。
「鳥!!!あるのか!」
嵐の反応は早かった。
「取ってくる」
華音は竃の側にある箱の中から取り出した。
「はい、これ!」
「なんだ、乾いているのか?」
嵐は華音が渡した肉の塊の臭いを嗅いでいる。
「煙臭いぞ」
そう言いながらもあっという間に食べてしまった。
「でも、それなりに美味い!」
その言葉は合格点ということだ。
「こうしておくと保存が効くの」
華音は笑っている。
「それは母の知恵か?」
真魚が華音に聞いた。
「そうよ」
華音の答えに真魚は思うところがあった。
貴族の女は料理などしない。
こんな山奥で生きては行けない。
山で鳥を捕り、それを捌き、保存するだけの知恵がある。
そう言う所で生まれ育ったということだ。
「あっ!」
華音が気づいた。
同時に二人が気づく。
「鬼さんが帰って来た」
「やれやれ」
真魚はその感度に驚いている。
「おい!ばれてるぞ!」
嵐が聞こえるように叫ぶ。
「なんだ、つまらんのう」
そう言いながら、前鬼と後鬼が家に入ってきた。
「おっ、お嬢ちゃんずいぶん変わったな!」
前鬼が華音を見るなり驚いた。
「ほんに、見違えるようじゃ!」
後鬼も驚いている。
華音の波動の変化を二人はそう捉えた。
だが、それは真魚も嵐も同じである。
「どうだった?」
真魚が話を切り出す。
「真魚殿の言うとおりですな」
前鬼は真魚に感心している。
「では、明日にでも行ってみるか!」
嵐に気合いが入る。
「そのことですが、ちと時間をくだされ…」
後鬼が申し訳なさそうに言う。
「どういうことだ」
そう言いながらも真魚は分かっている。
「舞台が大きいとそれなりの苦労もあるようで…」
前鬼の言葉は大きな意味を持つ。
「それほどか…」
真魚が笑っている。
「はい、それほどで…」
前鬼が笑っている。
「何の事じゃ!」
嵐には分からない。
「お主は知らなくてもよいことじゃ!」
後鬼が嵐をからかう。
華音が笑っている。
「嵐、まだあるわよ!」
華音がそう言って鳥の肉を持って来た。
「それを早く言え!」
嵐の切り替えは速かった。
「何だそれは!」
後鬼が興味津々で見ている。
「よかったら後鬼さんもどうぞ」
華音が後鬼にも持って来た。
「よいのか?」
大切な食料であることは後鬼も分かっている。
「ええ、母の分はもう要らないので、皆さんで食べてください」
華音は明るかった。

「何か良きことがあったのじゃな」
後鬼の微笑みは優しさに溢れている。
「はい!」
華音の波動が語っている。
「こんなに楽しい時間は生まれて初めて…」
華音は感じていた。
自分が変わって行く。
今までとは違う。
ときめいている。
わくわくする。
心が震えている。
これが本当の自分。
今まで抑えていた心。
それが解き放たれようとしている。
そして、変われる自分をうれしく思う。
自分が望む自分になれる。
「お母さん、ありがとう…」
その事に華音は感謝していた。
続く…
-この物語はフィクションであり、史実とは異なります。
実在の人物・団体とは一切関係ありません-