「ところでお主達は何をしていたのじゃ」
嵐は姿を消していた前鬼達の行動が気になっていた。
「ちょっと一仕事、真魚殿に頼まれてな」
前鬼が言った。
「何の仕事じゃ?」
「それはまだ言えぬ」
嵐が内容を尋ねたが、前鬼は言葉を濁した。
「お主らだけで何が出来るのじゃ?」
嵐は前鬼と後鬼を挑発した。
「その手には乗らぬ、真魚殿にしかられるからな」
後鬼は嵐の挑発を軽くあしらった。
「真魚殿が何の考えもなしにこの地に来たと思うか?」
前鬼は嵐に問いかける。
「それはない」
嵐は確信を持って言った。
「じゃろう!」
後鬼は相づちを打つ。
「そう言うことじゃ」
前鬼は嵐を窘めるように言った。
「それではわからん!」
嵐は自分だけが蚊帳の外であることが不満であった。
「お主らだけで何を企んでおるのじゃ!」
嵐は知りたくてしょうがなかった。
「これは儂らにしか出来ない仕事じゃ」
後鬼が言った。
「厳密に言えば二人そろってないと出来ない仕事じゃ」
前鬼が言った。
「お主ら二人がそろうとなんか良いことがあるのか?」
嵐は不機嫌そうに言った。
「良いことはないが、出来ることがある」
後鬼は言った。
「出来ること?何か芸でも出来るのか?」
嵐には皆目見当が付かなかった。
「芸と言えば芸になるかな」
前鬼が言う。
「そうじゃのう」
後鬼が頷く。
「そこまで言うなら見せてくれ!」
嵐はたまらずそう言った。
「ほ~見たいのか?」
後鬼がそう言って嵐を覗き込む。
「見たい!見せてくれ~~~!」
嵐がたまらず吠えた。
「仕方ないのう」
前鬼と後鬼はそう言うと肩を組んだ。
そして残っているお互いの手で印を組んだ。
呪を唱える。
「お~!」
嵐は驚いた。
二人の躰が陽炎のように揺らぎ始めた。
「お~お~お~~~~~~!」
嵐は予想もしない出来事に奇妙な声を上げていた。
揺らぎながら融合していく。
「お~お~お主ら一体!」
嵐は目を丸くして二人を見た。
いや、今は二人ではなく実体は一人であった。
「どうじゃ!」
前鬼と後鬼は前鬼と後鬼ではなくなっていた。

「お、お主らこんな特技があったのか!」
嵐はある意味で感動していた。
「ひょっとして吉野山の天狗とはお主らのことか?」
嵐はふと湧いた考えを言った。
「そうかも知れん」
「じゃが、この技はそう長くは使えん、霊力の消耗が激しいのでな。」
そう言うとまたもとの二人に戻った。
「ははぁ~お主らその技を使って・・・」
嵐にはおおよその見当がついたらしい。
「まあそんな所だ」
元に戻った前鬼が答えた。
「真魚も面白い事を考えるな」
嵐は感心していた。
「さすがは真魚じゃ」
自分で納得していた。
「わかったのか?」
「さあ?」
前鬼と後鬼は半信半疑であった。
「真魚・・・どこに行ったのじゃ~」
嵐は真魚に会いたくなった。
「ふふっ」
白い空間であった。
花の絨毯。
花びらが敷き詰められていた。
二人は向き合って寝そべっていた。
互いの躰に手を添えてくすぐって遊んでいた。
丹生津姫が真魚の目を見つめていた。
真魚が丹生津姫の目を見つめていた。
互いに目を逸らすことはない。
そうすることで互いの心をつなぎ止めていた。

「私は今まで・・・お前に出会うまでは、人は虫けらと同じだと思っていた。」
「そんな奴らもいる」
真魚は姫の言葉にそう答えた。
「だが、今は違う」
「お前という存在が私を変えた・・・」
丹生津姫は真魚の頬に手を触れた。
そして、その手を真魚の顎の先まで滑らした。
真魚は黙って姫を見つめていた。
姫は唇を真魚の唇に重ねた。
真魚はその腕を姫の背中に回し、その行為を受け入れた。
しばらく二人は揺らぎながら、お互いの唇を確かめ合っていた。
二人がふれあい動いている。
姫が唇を離した。
「お前といると・・・」
「抱き合っているのに・・・」
「苦しいのだ・・・」
「唇を重ねているのに・・・」
「切ないのだ・・・」
姫は真魚の目を見つめていった。
「俺も同じだ」
「相容れぬものが相容れようとする」
「それは哀しくて切ない・・・」
真魚は言った。
「相容れぬもの・・・陰と陽・・・男と女」
姫はそうつぶやくと再び真魚に唇を重ねた。
真魚は姫を抱きしめた。
互いの肌のぬくもりが、その切なさを癒す。
重ねた唇が沈黙を守る。
だが、どんなに肌を合わせても、どんなに唇を重ねても足りなかった。
「私はどうすれば良いのだ・・・」
「この感情はどこに行きたいのだ」
丹生津姫は感情に押しつぶされそうになっていた。
「切ないのだ・・・」
「お前の事を、思えば思うほど切ないのだ・・・憎らしいのだ」
「こうして・・・」
姫は真魚の背中に爪を立てた。
「・・・。」
真魚は姫の目を見つめて言った。
「そなたが愛おしい・・・」
姫の目から涙が溢れた。
姫は真魚を受け入れた。
感情の渦が姫の心を捕らえた。
真魚の波動が伝わってくる。
心地よい・・・。
真魚の波動によって渦が加速していく。
『いつまでもこうしていたい・・・』
『この渦に抱かれていたい・・・』
『真魚といたい・・・』
姫はそう感じた。
渦はどんどん大きくなっていく。
渦が二人を包み込んでいく。
姫は真魚にしがみついた。
波が来る。
波が押し寄せてくる。
心地よい・・・。
苦しい・・・。
心地よい・・・。
切ない・・・。
互いに違う感情が打ち寄せる。
だんだんと周期が速くなる。
それに合わせるように吐息が漏れた。
だんだんと強くなる。
大きくなる。
いつの間にか吐息は声に変わっていた。
その大きさに・・・。
全てが包まれていく・・・。
渦の中で時が止まる。
二つの心が混ざり合う。
足りないものを求め・・・。
隙間を埋め・・・。
その中に互いを取り込もうとする。
相容れない切なさがそれを拒む。
それでも求め合う。
突然。
全てが止まる。
中心からエネルギーが沸き上がった。
弾けた。
全てが弾けた。
叫んでいた。
真魚の名を叫んでいた。
真魚は全てを包み込んだ。
姫は全てを受け止めた。
静かに時が流れていく。
「これが・・・」
丹生津姫は薄れゆく意識の中で感じた。
「生命の・・・力・・・」
吐息が時を数えていた。
感情の渦が静まっていく。
そして…。
突然…
姫の心に光が射した。
「真魚…」
「思い出した…」
「すべては…ひとつだったのだな」
姫は真魚を見て言った。
真魚は姫を見つめていた。
「だから…愛おしいのだ」
真魚の言葉がしみこんでくる。
儚さが心を締めつける…。
「真魚…」
姫は真魚の胸で永遠の今を願った。
続く…