沖縄から東京に戻って

すぐの頃、

 

以前使っていた洗濯機は

処分してしまっていたので

洗濯機を買うまで

コインランドリーを

使っていた時期があった。

 

洗濯機なんて注文すれば

今や次の日来るくらいが

普通なのだろうが

 

買いに行ったり

ネットで注文したり

することを先延ばしにして

 

それより格段に面倒臭い

コインランドリーに

行く羽目になったことは

 

私と言う人間について

多くのことを語っていると思う。

 

そしてそんなことを

選択してしまったのは

 

タクシーで帰宅途中に

新しくできたらしい

なんかいい感じの

コインランドリーを

たまたま見てしまった

せいもあると思う。

 

そこにはたくさんの

白っぽいバルーンが飾ってあり

オープンセールということが

強調されていた。

 

引っ越して数日経ち

洗濯の必要性を感じたときに

その存在を思い出し

 

深夜に洗濯物を詰めた

リモワの銀のスーツケースを

ガラガラとひっぱり、

 

と言いたいところだが

実際にはタクシーに

ワンメーター乗り

そこに何度か通った。

 

そこはスマホで

管理できるところで

新しくできたばかりだから

 

ステンレスがピカピカ光っていて

何もかもが綺麗だった。

 

洗剤も必要なかった。

 

おかげで柔軟剤の

匂いもなく快適だった。

 

私はこのひと気のない

コインランドリーで

洗濯物が終わるのを

待つ時間が好きだった。

 

そこは乾燥まで

オールインワンでできる

機械もあり

 

昔のドラム式みたいに

死ぬほど時間もかからなかった。

 

蛍光灯は決して目に

やさしくはなかったけれど

 

その場所の無機質さに

なぜか心癒された。

 

ランドリーから数件向こうには

吉野家があり

たまにそこに行くであろう

人たちが前を通り過ぎたが

ランドリーで人に会うことは

一度もなかった。

 

っていうほど

何度も行ってはいないのだが。

 

私は一人暮らししている時も、

普通にずっと洗濯機、

乾燥機のある生活をしていた

はずなのだが、

 

でもいつかどこかで

コインランドリーを

使っていた時期があるはず

なのだが思い出せない。

 

ロンドンじゃない。

バーゼル(スイス)でもない。

 

多分アメリカだ。

 

でもアメリカの高校は寮制で、

お金を払えば

毎週一回全ての洗濯物を

洗って、乾かして綺麗に畳んで

寮の部屋まで持ってきてくれたから違うはず。

 

NYか?

 

いや、NYのマンションの

地下にはランドリールームがあったぞ。

 

カリフォルニアか?

 

もしかしたら?

そうかも知れない。

 

はじめてカリフォルニアに住んだ頃

適切な家が見つかるまで

私はホテル暮らしをしていた。

 

サンフランシスコから

ゴールデンゲートブリッジを

渡って40分くらい行ったその街には

たった一件のホテルしかなかった。

 

ホテル、と言ったが

実際にはモーテルだった。

(ラブホテルではない)

 

そこは◯◯スイーツという名前で

全室がスイートルームだった。

 

スイートルームというのは

豪華絢爛な部屋という意味ではなく

ベッドルームとリビングルームが

分かれている部屋のことだ。

 

モーテルは

大きなプールを囲んで

3階建ての外廊下で

モーテル6とかデイズインとかより

ちょっと高い。

 

でもそれまでの私の暮らしには

見合わなかったのだが、

最初に予約していた

写真で見たらめちゃ可愛い

ちょっとメキシコ風味のB&Bが

猫臭くてすぐに

アレルギー反応が起きたこと

(部屋は本当に可愛かった)

 

それで仕方なく

タクシーでB&Bやら

隣町のホテルやらを見て

いちばん環境的に

自分にやさしいところがそこだったのだった。

 

経営していた会社を手放した私は

そこで久しぶりの学生生活を始めたのだった。

 

でも

ホテルに洗濯機、乾燥機は

ついていそうだよね。

 

いったいどこの記憶なんだろう。

 

とにかく

コインランドリーで

洗濯物を待つ時間が

嫌いじゃなかった自分は

この時はじめてじゃなかったのだ。

 

多くの人は

コインランドリーに洗濯物を置いて

終わった頃に取りに来る。

 

私もそうだった。

 

でも私は

洗濯物を機械に突っ込んですぐには

そこを出なかったり

ちょっと早く戻って

乾燥機の周る音を聞いて過ごしたりする。

 

その孤独なはずの時間が

なぜか豊かに感じて

昔はスマホもなかったから

何をしていたのやらなんだけど

 

とにかく

コインランドリーには

心温まるイメージしかないのだ。

 

匂いに敏感で

なんならやたらとアレルギー反応を

起こしていた自分なんだが

 

アメリカの洗剤の匂いは平気だったみたいだ。

 

そういえば

私は環境の音を聞いているのが好きだった。

 

それはどんな音楽より

当時の私にとっては音楽だったんだ。

 

大音量のクラブや

低音の響くヒップホップで

いっぱいになっていた私の脳と耳が

音楽を聴くことをやめ

環境の音を聞くことで

癒されていたのかも知れない。

 

今思えばだが。

 

そして私はスマホを覚え

その分環境の音を

聴き続ける豊かさを

手放してしまっていることに気づいた。

 

余白があったら埋めたい。

 

これは現代人、都会人によくある

依存症のようなものだ。

 

私はかつてそこから

まったく自由に生きていた日々があった。

 

たくさん自然を散歩し

野生動物に遭遇し

時々彼らとコミュニケーションをした。

 

私は器用になり

その頃の意識状態に入ろうと思えば

いつでも入れると言えないことはないのだが、

 

それよりも

知識を増やしたり

エンタメされることを

楽しむ日々になった。

 

でも時々

一人でどこかに行き

黙って環境の音を聞く時間を作る。

 

何もかもが音楽だった日々が蘇る。

 

その音楽は

どんなことがあっても

譜面にはできない

静けさと同義語だ。

 

 

私は頭がおかしい。

 

灰色のマンションやビルを見上げて

時々そう思う。

 

世界には水と緑と

青い空と夕焼けとの方が

目に入るものの

 

大半の場所があるのに

なぜ私はここ都会に

住んでいるんだろう。

 

私は頭がおかしい。

 

でもそう思えているうちは

まだ少し正気が

残っているんだと思って少し安心する。

 

そしてスマホで

汚れた脳を鎮めるために

深呼吸をして意識を身体に下ろす。

 

すると

そこはかと漂う汚水の匂いも

排気ガスも子供の泣く声も

全部が音楽へと戻って行く。

 

なんとも陳腐な表現しか

思いつかない自分が情けなくもあるが

 

もうそれはただただ美しいとしか

言いようがないのだ。

 

 

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