私はホルモン女だ。
大腸小腸塩ホルモン、炭火で焼いてジュウジュウジュウ♪のホルモンではなく、体内で分泌される、あのホルモンだ。
噂では、25mのプールにホルモンを一滴落としただけで、その影響力は甚大だとかなんだとか……。要するに、それだけホルモンってヤツは凄い力を持っている。ご多分に漏れず、私も「ホルモンに翻弄されて生きてきた」と言っても過言ではない人生を送ってきた。

特にホルモンの中でも最大の敵は「黄体ホルモン」、通称「お乱の方」。
毎月毎月排卵すると、一気に勢力を増すこの「お乱の方」が及ぼす影響は、筆舌に尽くしがたい。まるで下剋上。完全に人格が乗っ取られるのである。
「スーパーウルトラネガティブシンキング」
私が大嫌いなこの性癖が、お乱の方の台頭とともにむくりむくりと頭をもたげ、全人格を支配する。

例えば、職場で同僚がコソコソと話をしている。
……ああ、悪口を言っているんだ。間違いない。あれは私の悪口だ。と、絶対的自信をもって思いこむ。

例えば友人達がクスクス笑っている。
……私のことを馬鹿にしているに違いない。原因はあの時の発言だろうか、それとも……ああ、どうしようどうしようどうしよう。

にこやかにおしゃべりした後、相手がふと遠い目をした。
……きっと彼の本音は違うところにあるんだ。ああ、もうダメだ終わりだ絶望的だ。
世の中みんな敵だらけ。生きている理由すら最早見出せない。死んだほうが良いのか私。

まるで突破口のない真っ暗闇に放り投げられた気分。
昨日まで薔薇色だったはずの人生は一気にどん底真っ暗闇と化す。挙句、その鬱状態、突如攻撃性に転じるのだからタチが悪い。
親子喧嘩に夫婦喧嘩、友人との引っ叩きあい、諍い争いエトセトラ。

初潮を迎えたあの日以来、「お乱の方」の意のままに操作されてきた。
憑依された私が通ると、飼いウサギは耳をピタリと伏せて歯をむき出したまま、完全な応戦態勢で側を駆け抜けるし、夫は防衛手段として耳と感情の機能を意図的に放棄する。
申し訳ないけれど、どうしようもないのだ。お乱の方が怒り始めると制御不能。意識すら飛んでしまうのだから。

しかし、そんな恐怖時代も、月経開始とともに一挙に幕を閉じる。
目の前には燦燦と日の光が降り注ぎ、緑の牧場でらりほっほ~♪人生薔薇色夢色あっは~ん♪♪

織部桃、33歳。
今後の家庭生活・社会生活を円満に営んでいくための鍵となるのは、この「お乱の方」とどう折り合いをつけていくか、この一点にかかっているような気がする。