
フェルメール「真珠の耳飾りの少女」
オランダという国の名前を耳にするたびに、私はかつて大親友だった、ある女の子の事を思い出す。
太陽のような笑顔で笑う子だった。
クルクルした短い金髪が、日の光の下でキラキラキラキラ輝いて、南の海のような鮮やかなブルーの瞳は、見つめられると身動きできなくなるほどの美しさだった。
恋に恋していた私たちは、よく酔ったように庭のトランポリンの上で跳ねながら、おしゃべりをしては笑い転げた。
オランダは、彼女の故郷だった。
可愛らしい風車が周る国。チューリップが有名で、酪農が盛んで、花が溢れる、明るく朗らかで健全なイメージの国。
けれど、故郷について語る時、底抜けに明るい彼女の瞳にはいつも、灰色の影が射した。
アムステルダムに着いたとき、私は持っていたイメージと、目の前に広がる光景とのギャップにとまどった。麻薬の売買や売春が認められているこの国に流れる空気は、決して居心地の良いものではなかったのだ。
運河を歩けば、見るからに麻薬中毒患者らしき男が異星人のような足取りで寄ってきてはお金をせびってくる。広場は決して清潔ではなく、霧雨の下を歩く若者達の目は曇り、背中はなんとなく丸まっていた。
それでも教会のパイプオルガンの音は美しかったし、レンブラントの作品は圧巻だった。
アンネフランクが隠れていた家の裏手にあるイタリアンレストランのピザは最高に美味しかったし、テーブルに置かれたキャンドルのチラチラと揺らめく光の上で、向かい合わせに手を握りしめながら交わし合っていた美しいカップルの視線ほど饒舌なものに未だ私は出会ったことはない。
オランダという国の美しさだけを堪能したいのならば、間違いなくハウステンボスに行った方が良いと思う。
決して美しいだけではない。甘いだけではない。まさしくフェルメールの作品そのものように、光と影を併せ持つこの国は、もしかして酸いも甘いも噛み分ける、大人だけが楽しめる成熟した国なのかもしれない。
Written by Momo Oribe