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第一話
第二話
第三話
第四話
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5分もたたずに、1階のロビーの柔らかいソファーにぐったりと身を投げ出していた沙弓の前に、瑞穂が姿を現した。
その手には沙弓のコートや荷物がしっかりと握られていた。

恐縮する沙弓に瑞穂は
「大丈夫よ。沙弓さんがトイレで具合が悪くなったから、送ってくると言ってきたの」と静かに言って微笑み、そして続けた。
「疲れたでしょ。あの男には気をつけた方がいいわよ。変な所、触られなかった?」

そう。小太りで背の低い上司は、酒臭い息を吐きながら汗ばんだ右手で沙弓の手を握りしめ、反対側の手で腰の辺りをいやらしく撫で回していたのだ。
沙弓は思わず左手をソファーにこすりつけながら、こみ上げてくる悔しさを吐き出した。

「もう、気持ち悪くて。踊れないふりして思い切り足を踏みつけてやったのだけれど、意にも介さない風で、ガンガン触ってくるのだもの」

眉をしかめて話す沙弓を見て、瑞穂は小さく頷き、飲みなおしに行こうと誘ってきた。
酒は好きだし、憧れている先輩からの誘いだ。沙弓に断る理由はなかった。

瑞穂が沙弓を連れて行ったのは、なんと、同じホテルの2階にあるバーだった。
「具合が悪くて帰ったはずなのに、こんな所で飲んでいて、見つかったらどうしよう……」
ロビーに面した階段を昇り、入口で躊躇する沙弓に、「灯台下暗しよ」と瑞穂は軽くウィンクしてポンと背中を押したのだ。

アーケードに面した裏口のドアを押して、ロビーに入る。
ホテルのロビーは今日は少し混んでいて、「雪あかりの路」を見てきたのであろう、ジャンパーやコートを着込んだ観光客達が、上気した頬で何か楽しそうに話しながら行き交っていた。

ロビーを横切り、あの時と同じ階段を昇る。
バーの入口では、制服姿の若い女が笑顔で沙弓からコートを受け取ると、中へと誘ってくれた。

瑞穂と隠れるように座った奥のソファー席は、今日は、9割以上が埋まって賑やかだった。
さざめく声の中を、制服姿のウエイターたちが深海魚のように静かに泳いでいる。
連れがいない沙弓は、人でいっぱいのソファー席に陣取るのは何となく気が引けて立ち止まっていると、「あちらでよろしいですか?」先ほどの若い女がにこやかに微笑んでカウンター席を指した。
沙弓は小さく頷いて、足を踏み出した。
カウンター越しにバーテンダーが、チラリとこちらを見たような気がした。


……つづく