くすくすくす うふふふふ……
密やかに楽しげな声が聞こえてきます。
家の鍵を開けて、ドアに手をかけた瞬間でした。
ちょっぴり躊躇して、
それからそっと、扉を開きました。
ふふふ それでね、くすくす ふふふ、ふふふ……
おしゃべりは続きます。
こちらの存在なんて、完全に無視しているかのように。
その後帰宅してきた夫は、玄関に入った瞬間、体と目を硬直させました。
「……す……すごいね……」
夫の瞳の中にはその瞬間、彼女達以外のものは何一つ映っていませんでした。
それを見た妻は、チリチリ……と、かすかにやきもちを焼きました。
彼女達は、くすくすひそひそをやめません。
横目でそおっと夫の反応を見ながら……。
チリチリチリチリ……
きっかけは風邪でした。
何日も続く高熱と喉の痛みで、にっちもさっちも行かなくなっている時に届いた、素敵なお見舞い。
節句にちなんだ、桃の花がメインのフラワーアレンジメント。
不思議なことに、花にものすごい磁力を感じて釘付けになった私の体調は、以降、急速に回復に向かい始めたのです。
古来より桃は、邪気を祓うとされている花。
「もしかして……」と思いました。
その後も何度か、小さな不思議な出来事は続き、私は花を飾ると、じっと眺める癖がついてしまいました。
すると、聞こえてきたではありませんか。花々の声が。
先日我が家に来てくれた薔薇は、饒舌な寂しがりやでした。こぼれんばかりに花開く、小さなピンク色の薔薇たちをベッドサイドに置くと
見て。見て。私を見て。
ねぇ、綺麗でしょ。素敵な香りでしょ。ねぇ、見て。
と、何度も何度も話しかけてきました。
明かりを消して、目を閉じても、おじゃべりはやみません。あまりにうるさいので、布団にもぐって思わずくつくつ笑ってしまったほどです。
初夏に現れた「梅花うづき」は無口だけれど、やけに艶っぽく。喩えるならば、茄子紺の着物をまとった体が帯を解かれてぱぁっと解放された、そんな瞬間の華やかさを持つ、色白で豊潤な大人の女性でした。
何かモノ言いたげな気配を感じてハッと振り向くと、彼女はぽってりした唇をにっこり微笑ませ、ついっ と視線をそらすのです。なんだかドキリとさせられるような微笑みでした。
花は、香りを、色を、形を、命を 周囲に拡散し、空気の色さえ変えてしまいます。さらにその命が放つエネルギーは見る者にさえ影響を及ぼす力を持っています。
体調を改善させたり、心を癒したり、高揚させたり、ちょっぴりセンチメンタルな気分にさせたり……。
何よりも、花々のおしゃべりは、とても楽しいものです。
ちなみに、玄関で夫を釘付けにしていたのは、薄紅色をにじませた、百合の花でした。
黄昏時から夜にかけて会話をはずませる彼女達。
ナイトキャップ代わりに、ベッドサイドに一輪飾ってみませんか?耳を傾けてみませんか?
密やかに楽しげな声が聞こえてきます。
家の鍵を開けて、ドアに手をかけた瞬間でした。
ちょっぴり躊躇して、
それからそっと、扉を開きました。
ふふふ それでね、くすくす ふふふ、ふふふ……
おしゃべりは続きます。
こちらの存在なんて、完全に無視しているかのように。
その後帰宅してきた夫は、玄関に入った瞬間、体と目を硬直させました。
「……す……すごいね……」
夫の瞳の中にはその瞬間、彼女達以外のものは何一つ映っていませんでした。
それを見た妻は、チリチリ……と、かすかにやきもちを焼きました。
彼女達は、くすくすひそひそをやめません。
横目でそおっと夫の反応を見ながら……。
チリチリチリチリ……
きっかけは風邪でした。
何日も続く高熱と喉の痛みで、にっちもさっちも行かなくなっている時に届いた、素敵なお見舞い。
節句にちなんだ、桃の花がメインのフラワーアレンジメント。
不思議なことに、花にものすごい磁力を感じて釘付けになった私の体調は、以降、急速に回復に向かい始めたのです。
古来より桃は、邪気を祓うとされている花。
「もしかして……」と思いました。
その後も何度か、小さな不思議な出来事は続き、私は花を飾ると、じっと眺める癖がついてしまいました。
すると、聞こえてきたではありませんか。花々の声が。
先日我が家に来てくれた薔薇は、饒舌な寂しがりやでした。こぼれんばかりに花開く、小さなピンク色の薔薇たちをベッドサイドに置くと
見て。見て。私を見て。
ねぇ、綺麗でしょ。素敵な香りでしょ。ねぇ、見て。
と、何度も何度も話しかけてきました。
明かりを消して、目を閉じても、おじゃべりはやみません。あまりにうるさいので、布団にもぐって思わずくつくつ笑ってしまったほどです。
初夏に現れた「梅花うづき」は無口だけれど、やけに艶っぽく。喩えるならば、茄子紺の着物をまとった体が帯を解かれてぱぁっと解放された、そんな瞬間の華やかさを持つ、色白で豊潤な大人の女性でした。
何かモノ言いたげな気配を感じてハッと振り向くと、彼女はぽってりした唇をにっこり微笑ませ、ついっ と視線をそらすのです。なんだかドキリとさせられるような微笑みでした。
花は、香りを、色を、形を、命を 周囲に拡散し、空気の色さえ変えてしまいます。さらにその命が放つエネルギーは見る者にさえ影響を及ぼす力を持っています。
体調を改善させたり、心を癒したり、高揚させたり、ちょっぴりセンチメンタルな気分にさせたり……。
何よりも、花々のおしゃべりは、とても楽しいものです。
ちなみに、玄関で夫を釘付けにしていたのは、薄紅色をにじませた、百合の花でした。
黄昏時から夜にかけて会話をはずませる彼女達。
ナイトキャップ代わりに、ベッドサイドに一輪飾ってみませんか?耳を傾けてみませんか?