今回は書評です。

 

名越先生の本ってこれまでほとんど読んできましたし、名越先生が好きな人って多分みんな「名越マニア」だと思うのです。その名越マニアの一員として語りたいのが、この『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である」(以下『ひとりぼっち』と略)はちょっと今までの本と違う印象がありました。

 

今までの名越先生の本って、精神科医という肩書きがもちろんあるわけだから、本を出す出版社からも、そして読者からも「色々な臨床の現場を眺めてきた精神科医が、あなたの生活に役立つことについての記述」って、せっせとサービス精神で書いてきてくれたんじゃないかって思ったのです。もちろんそれだけではないんですけど、「明日から役立つ知識」の言葉の力も今までの著作って強くあったのです(上から目線で言っているわけではなくて、その知見と考えの深さが、今でも実生活において僕自身は大変役に立っております)。

 

でもこの『ひとりぼっち』はなんか森とか山とか湖に行ったような気分になります。「このページのこの部分をメモして自分のモノにする」って意気込むよりかは、色々なページに色々な花が咲いているかのように言葉があって、その言葉に触れるたびに「あ、こういう妄想の危険性に陥りかけていたな」とか「自分がやっていることは今は多分正しいな。よし」とか、確認することができます。

 

たとえば

 

 

今、理解できなくても、ソロタイムを過ごしているうちに、きっと「わかる」瞬間がやってきます。それはたぶん、ひとりぼっちで明るく、さわやかな時間を過ごすことができた人は、「この世界は、本当は温かい場所であること」そして「あの人は、本当は私に向って微笑んでくれていること」を、実感するからです。

 

もちろん、私たちの心から、完全に「さびしさ」が消え去ることはありません。しかしながら、群れの中の視線ばかりを気にして、「もしあの人に馬鹿にされていたら嫌だな」「もっと私の話を聞いてほしい」といった不全感で心がいっぱいになっている状態から手を放すことができれば、「さびしさ」はそれほど辛いものではなく、むしろ、ほのかな温かさを覚えるような感覚に変わっていくのです。

 

(p.p226-227)

 

ちょっと僕がこの本を読んで想起したことを最後に少しだけ話させてください。

 

僕はお客さんを目の前にして色々な話を聞く仕事をしてきましたし、今でも多少はやっています。

 

そのときに、ひとりひとりの「不安」とか「その人の最大の敵」ってその人が作り出した「今そこにいない他人の妄想」とか「こうなるに違いない」という根拠のない、ネガティブな方の未来予測なんですね。

 

今の世の中って、携帯電話をはじめとしたコミュニケーションツールがかなり高度に発達し、そして「携帯電話一本あればなんでもできる」という万能化がすごいです。多分、もうほとんどの人にとって財布を落とすよりも携帯電話を落とす方が社会生活を送る上でダメージが甚大になってしまっているでしょう。

 

いつでも誰かとか情報と繋がれるって、たしかに素晴らしい側面もあります。でも、それによって

 

・いつでも他人の動向が目に入る環境がある

・いつでも「あの人にこう言われた」と振り回される環境がある

・いつでも「あ、今このメッセージ送ろうかな」と他人に関心がいってしまう

・いつでも既読スルーや未読スルーを気にしなければいけない環境がある

 

とデメリットな面もどうしても出てきてしまいます。

 

いつでも誰とでも繋がれる。でもそれによって「繋がっているのか繋がっていないのかわからないもののために、ものすごく自分が振り回されてしまう」っていう面も強く出てきていると思うのです。「情報」はあるけど「実体がないもの」に支配されなければいけないから。

 

「ここにはいない他人」の動向を気にしてしまう「妄想」って、その人が何か良い行動をする前にかなりの体力を奪っていきます。だって、何かをする前に「どうせあの人は歓迎してくれないに違いない」とか、そういう想像をするとやる気ってそがれるじゃないですか。

 

繋がりを繋がりに戻すためにはひとりの時間が必要です。

 

行動や勇気は、ひとりの時間の中で起きます。

 

だから、一日のなかで何度か、特に「さびしさ」という影が自分に差し込んできたときは

 

「ひとりになってみる!」

 

とひとり宣言をしてみる。そしたら思っている以上に勇気が出たり、自分の力を取り戻せていけますよ。

 

「ひとりになってとりあえずやってみる!」

 

どうなるかわからないけどとりあえず何かやってみる。これってすごく大事な未来への一歩になります。そこに他人の動向を入れない、その人なりのささやかな一歩。

 

この『ひとりぼっち』は、「あ、さびしくて良いんだ」とかそういうことを確認させてくれる、ちょっと元気を無くしたときなどにパラパラ読むだけで固まった空気を流して森に放流してくれます。ぜひぜひ。