母にはひとつ、忘れ物がある。
その忘れ物は、もう取りに帰れない忘れ物だという。
私は両親と兄と祖母(母の母)と一緒に暮らしていた。
母はあの当時には珍しいくらいのキャリアウーマンで、小さい頃は、祖母と一緒に、新聞広げてもやしの根をとったり、赤や黄色や緑の縁取りが懐かしい日東紡のふきんを一緒にたたんだり、ワラビやゼンマイを一緒に取りにいったりと・・・。
「エエか、ボイ子、これは男ゼンマイ、おいしくないし、これ採ると来年からぜんまいできなくなるから、採らんといてね」
と教えられ
山菜の世界にもオトコとオンナ・・・
と驚いたおかげで、強烈に記憶に残っている。
祖母がたいてくれたゼンマイを、やった~と一口ほおばると、ま、まっず~!!
女ぜんまいでもこの程度か
と採ったところで食べれないという、まったく割りの合わないただの労働力となっていたものの、ぜんまい、つくし、フキノトウと春には祖母と山へ繰り出していた。
そんな祖母は、この時期になるといつも作っていたのが、山椒の醤油煮。
そう、そのレシピこそが、母が聞き忘れた「忘れ物」なのだ。
祖母が亡くなったのが夏。
その次の梅雨に入る前あたりで、「あっ!」と気づいたらしく、自分の舌と記憶を頼りに作ってみたのだが、同じ味にはならなかったという。
私の中高時代のお弁当には、ほぼ毎日入っていた山椒の醤油煮。そう、わたしにもあの味の記憶はしっかりある。
ほな、作ってみたらエエのとちゃうか
と思いついてしまったのだ。
山椒を買いキレイにあらう。
なんだ、この初夏を感じる力強いグリーンは。
まずはお鍋に入れて、茹でちゃう。
それから水にさらすこと1時間ほど。何度か水をかえながらね。
それから実を枝から外す作業。
茹でる前に外すよりもポロポロ取れやすくて、とはいえ、すげぇ量・・・。何度か休憩を入れながら、ぽろぽろぽろ~、ぽろ、ぽろぽろ、ぽろぽろぽろ~
うぅぅ~やってられっか~
と途中コーヒータイム。
その後もポロポロ作業は続くのだが、もうアカン、とガルたちを招集。手を増やすことに。
なん十粒かやった後、
「私リポート書いてたとこやったのに・・」とガル子
「オレもエッセイ書いてた途中・・」とガル男
「嘘つけ~!!YouTubeの音しかしてへんかったやん」
と言うと
「それはサイドに携帯置きながら、やんか~」
「な~」とふたり。
組んでんな、アンタら
と結託しているふたりをなかなか解放せず続く山椒の実外しは続く。
なんとか終了し、小分けにして冷凍庫へ。
その一袋、だいたい200gだけ、醤油煮にすることに。
しっかり日持ちしてたことを思うとお水は入ってないよな、と醤油、酒、みりんで甘辛く炊いてみることに。ほんの少しの煮汁を残して火をとめそのままに。
しばらくして味を見てみると・・・
だいぶ似たような味のような気がする。
でも最後にちょっとだけ遅れてきて全力疾走のなくてエエのになぁという山椒の「角」がヘッドスライディングしてくる気がする・・・。
調味料はだいたい、これで合っている感じ。
数日してへッドスライディングが現役であれば、来年、さらす時間をもう少し長めにして、祖母の味に近づけるように頑張ろうかと。
と分析を終えて瓶に詰め
出来上がり。
来月、久しぶりに実家の掃除へ行く。
山椒のたいたんも持って行って母に味見してもらおう。
母の忘れ物
似てるけどこれちゃうよな、と薄々気づきなが
「あなたの忘れ物はこの山椒の醤油煮ですか?」
と一応聞いてみるか。
まだまだ続く
母の忘れ物探しの旅が始まりました。
おまけシリーズ
アメリカの中学で見た驚愕の朝の忘れ物大会。それが日常と笑う事務スタッフたち
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Boi







