6月28日、父が息を引き取った。
私は母に頼まれ、通夜の席で弔辞を読んだ。
私は父を深く愛しているので、多くの人々の前で弔辞を読むのは
全く苦ではなかった。
生前父はこう言っていた。
「人間の記憶は、脳の中の海馬という場所に、一ヶ月しか保管できない。
でも、喜びや悲しみや驚きといった、感情を伴う記憶は、
脳の中の側頭葉という所に、永久に保管されるんだよ」
だから父の通夜葬儀の一瞬一瞬は、私の記憶に永久に残るだろう。
父の弔辞、その全文をここに記す。
「お父さん。
つい3か月前まで、医者として働いていたお父さん。
自分がガンだと知りながら、一年間、医者の仕事を続けていたお父さん。
お父さんは努力家なだけではなく、趣味が多い人でした。
ゴルフが得意で、ホールインワン賞を取ったこともありましたね。
小説の執筆も長年続けていて、今まで本を二冊、出版しましたね。
忙しい合間をぬって、私たちを色んな所に連れて行ってくれました。
その全ての思い出が、私の宝物です。
また、お父さんは、冗談を言って人を笑わせるのが好きな人でした。
誰に対しても温厚で、「性格があわない人と会った時に、態度に出ることはないの?」
と私が聞いたら、
お父さんは一瞬考えて「ないなぁ」と答えていました。
その時に、私がお父さんのような人に成長するには、あと何十年も必要だと思いました。
お父さんが開業医だった頃、毎晩のように救急車が来ました。
お父さんはどんなにぐっすり寝ていても、急患の連絡が入ると必ず飛び起きて、
患者さんの治療にあたっていました。
お父さんは、生涯を通じて一度も、患者さんを断ったことがありませんでした。
そんなお父さんを、私は心の底から尊敬しています。
今年の4月に私がお見舞いに行った時、病院の緩和ケア病棟の皆様のご厚意で、
ピアノ弾き語りで歌を歌うことができました。
その時、お父さんはお母さんとしっかり手を握りながら聞いていました。
「君は愛されるために生まれた」
という曲など、何曲か歌いました。
全ての曲が終わり、病室に体を横たえたお父さんは、天井を見上げながらこう言いました。
「歌声の中に、神の実在を感じたよ。
確かに神は存在する。
もう、死ぬことも恐くない」
私は、お父さんが旅立つ前に、
神の存在、
天国の存在、
命には決して終わりはないこと、
それだけは、どうしても信じて欲しいと思っていました。
だから、お父さんの言葉が嬉しくて、その晩、一人になった時に泣いてしまいました。
生涯を通じて、数えきれないほど多くの患者さんを救い続けたお父さんは、今、
神様と共に天国にいると思います。
お父さん、この地上での人生、本当にお疲れさま。
お父さん、今まで本当にありがとう。
ここにいる私たち全員で、これから自分の人生を精一杯がんばるから、
私たちを天国から見守っていてください」