⇒前回の話
部屋の前に立ちはだかる翔子にたじろぐクス男。
絶対に、あの女と目を合わせてはいけない!
「クス男さん、やっと二人きりになれたわね」
無言でうつむき、部屋に入ろうとするクス男。
その腕とガシッと翔子がつかむ。
「せっかく再会できたのに、なんで私のこと無視するの?」
「……」
「せっかくパーティーでカップリングできたのに、なんでLINEをブロックするわけ?」
「……お前が怪しい催眠術を使うからだよ」
「催眠術ですって?失礼ね!」
翔子がひるんだ隙に部屋に駆け込み、鍵をかけるクス男。
「ちょっと、開けなさいよ!」
ドア越しに叫ぶ翔子。
「これから人が来るんだ。帰ってくれよ」
「最低な男ね!いいわ、アンタの正体、みんなにバラしてやるから」
「うるさい、早く帰れよ!」
貴子はラウンジで、莉多子の本をパラパラとめくっていた。
「この本は、私の記念すべき処女作なの。読みたいなら、貸してあげてもいいわよ」
「ありがとうございます。でも、私には時間がないから・・・。莉多子さん、この本のタイトルにあるように、やっぱり大好きな人と結婚できたら一番幸せですよね」
「そうね」
「もし、大好きな人がこの世にいない場合はどうしたらいいですか?」
「うーん・・・死別を乗り越えるのはとても大変なことだわ。亡くなった人は美化されていくので、それ以上に愛する存在はなかなか現れにくいわね。でもね、諦めずに婚活を続けていけば、いつかまた大好きな人ができると思うの」
「そうですかね」
「だから、あなたのお願いを聞くのも、今回が最初で最後よ。これでしっかりケジメをつけて、前を向いていけるかしら?」
「ええ。莉多子さんには本当に感謝しています」
「明日早いから、そろそろ部屋に戻って、ゆっくり休みなさい」
「ハーイ。莉多子さん、おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい、また明日!」
この時の貴子の笑顔が、なんだか寂しそうに見えた。
部屋へ向かう貴子の肩をポンと誰かが叩いた。
振り返ると、ハブがいた。
「君は和歌子ちゃん、貴子ちゃん、どっちかな?」
「貴子よ」
「ねえ、貴子ちゃん。これから俺の部屋で一緒に飲まない?」
「えー、明日早いし、どうしようかなー」
「いいじゃん。俺の部屋、二階の一番奥だから。待ってるよー」
貴子が部屋に戻ると、慌てた様子で和歌子が部屋を出ようとしているところだった。
「和歌子、今からどこに行くつもり?」
「クス男さんからUMA2を一緒に観ようと誘われて。もう23時になっちゃう。早く行かないと!」
「えっ、クス男の部屋に行くの?大丈夫?襲われたりしない?」
「大丈夫よ。クス男さんは紳士だもの」
「・・・実は、私もハブの部屋に誘われたんだ」
「えっ、あんな男の部屋に絶対行っちゃダメよ」
「なんで和歌子は男の部屋に行く気満々なのに、アタシはダメなわけ?」
「だって、私は貴子と違って男を見る目があるもの。それに、貴子は過去に痛い目に遭っているでしょ。あの時のこと、忘れたの?」
「忘れるわけないじゃない! だから、今夜はあいつに復讐するチャンスなのよ!」
「ちょっと、待って、馬鹿なこと考えるのはやめて。とにかく今夜は行ってはダメ!」
「じゃあ、和歌子も一緒に来てくれる?3人で一緒に飲もうよ」
「えっ・・・それは・・・。とにかくUMA2を見逃すわけにはいかないから、終わった後ならいいわよ」
「じゃあ、後でハブの部屋に来てくれる?二階の一番奥の部屋よ」
「いや、貴子は私が戻ってくるまでここで待ってて。一緒に行きましょう」
「うーん。どうしよっかなー。和歌子が遅かったら、先に行ってるかも」
「あっ、もう23時!とにかく、早まらないでね。30分後に戻ってくるから!」
急いで部屋を出ていく和歌子。
クス男の部屋へ向かう途中、向こうから翔子がやってくるのが見えた。
すれ違いざま、翔子にそっとに耳打ちされ、目を見開く和歌子。
時計に目を落とすと、23時を1分過ぎていた。
もう、こうなったら行くしかない!
和歌子はクス男の部屋のドアを叩いた。
「クス男さん、和歌子です」
そっとドアが開き、素早く周囲を見渡すクス男。
「来てくれて嬉しいよ。さ、早く中に入って」
ドアを閉めると、クス男はカチリと鍵をかけた。


