郷土料理ではなくとも、ご当地グルメと呼ばれる日常の食べ物も、恐るべき生命力を持ってその土地に根を張っている。
私の願いはひとつしかない。日本人の食の多様性がが地域資源として再認識され活用されることである。宝は足元に眠っている。(p10)
![]() |
決定版 天ぷらにソースをかけますか? (ちくま文庫)
950円
Amazon |
著者の野瀬泰申さんは日本経済新聞の特別編集委員であり、ご当地のB級グルメに詳しい方。「B-1グランプリ」主催団体の顧問でもあり、ご当地食に関する著書も多数。引用文にあるように、ご当地グルメでの町おこしに期待する思いは強い。今回紹介する「決定版」は、『天ぷらにソースをかけますか?』『納豆に砂糖を入れますか?』(いずれも新潮文庫)を改訂の上合本。文庫でありながら460ページのボリュームになっている。
前半は表題のテーマをはじめ、東西で明確に分かれた「ぜんざい」と「お汁粉」の呼び方、「肉」と言えば豚なのか牛なのか、など、様々なテーマで、日経電子版などでのメールを元に、各地からの意見を取りまとめている。
ラーメンに関わるテーマはないものの、「冷やし中華」について1章が設けられている。冷やし中華の呼び方については、北海道の「冷やしラーメン」、京都大阪を中心にした「冷麺」の他、岩手県だけに「冷風麺」という呼び方が表れている。また、「冷やし中華にマヨネーズをつける?」の質問では、愛知、岐阜、三重、滋賀の他、福島県ではスーパーで売られている冷やし中華にマヨネーズがついているらしい。また、著者は山形県米沢市でも冷やし中華にマヨネーズ体験をしたらしい。
この本の後半では、著者が「東海道」「糸魚川-静岡構造線」を実際に歩いて、様々な食の境界線をリアルに探し求めている。ラーメンの中で取り上げられたのは、神奈川県のご当地麺とされる「サンマーメン」。これまでは、「多摩川より西、大井川より東」と語られていた分布エリアが、東海道沿いを実際に歩いた著者の確認範囲では、「大田区梅屋敷から、富士川の手前」との事。また、「糸魚川-静岡構造線」を歩いた中でも、サンマーメンが出現するのは富士宮市に入ってからとの事。他にも、イルカを食する文化圏や、名古屋式モーニング文化圏など、様々なジャンルで歩いて確認している。
この本の解説は小宮山雄飛さん。ホフディランなどで知られるミュージシャンですが、その肩書を一切出さずに、憧れのお姉さんの家で、焼肉にソースをかけると知って恋心が冷めた思い出を語りながら、この本の読みどころに触れています。
日本列島という縦に細長い島国の食文化の違いを明らかにし、さらにその違いこそ面白いとエンターテイメントへと昇華させた本書は、時に自分の本質に気づかされ、時に他人の存在・大切さをも感じさせる、あえて喩えるならアドラー哲学にも通じる、人生の指南書のような一冊ではないかと思うのです。
(p460)
この文章で締めくくられる解説は、食というテーマを真面目に考えさせてくれる名文であり、全国各地の食を様々なテーマで浮かび上がらせる、この本の本質を表わしているとも思える。


