「江戸のつけ味、大阪のだし味に対して、京都のもの味」と書いたのは、京都生まれの民族学者・梅棹忠夫。確かに京都の人は、衣食住すべてにおいて、「もの」が持つ不要なものを「削ぐ」「抜き去る」、または「薄く味をつけて引き立てる」ことに腐心する。
(p150)

 

 この本は、2012年に京阪神エルマガジン社から発行されたムックの文庫化。京都を取材するライターである姜さんの視点で、17軒の逸品がカラー写真とともに、店の歴史や空気、食べにくる常連さんの表情までも描かれている。他に、京都の中華に関する様々なコラムも掲載され、映画「タンポポ」の構想段階で伊丹監督が訪れたラーメン店の話や、新福菜館のやきめし弁当の話も紹介されている。


 タイトルの「京都の中華」は、ご当地の味としての統一した何かを示すものではない。横浜や神戸といった港町に比べ、海外の文化が遅れて入る事になった京都だが、香りを大事にしながら匂いを控えめにしたり、出汁を味わう為の工夫をしたり、京都に生きる人達に向き合った記録が、この本の中に残されている。


 「麺」の項目では、「中華のサカイ」の「冷めん」や、「やっこ」の「キーシマ」も紹介されている。キーシマを語る文章で出てくるのが、冒頭の引用部分。うどんだしに中華麺を入れたという境界上のメニューが、「京都の中華とは何か」を説明する、淡い輪郭になっている。


 後半には文庫版の付録として、京都の老舗料亭「菊乃井」三代目、村田吉弘さんのロングインタビューを掲載している。様々な「京都の中華」を食べていて、この本で紹介されている店舗にもしばしば来るという。「豚角煮」は京都では和食の中にあることや、「京都の中華」は「日本の洋食」と同じポジションにあるという指摘が大変興味深く、50ページを超える長さが気にならない。


 この本は「なんとも言い難い」が「京都でしか成り立たない」味を言語化しているが、決して分類化できるものではないだろう。この本を片手に食べ歩くものではなく、京都の街を巡る中で、ゆっくりと味わいながら、「ああ、これって京都の中華だなぁ」と感じ取る為のきっかけとして、あらかじめ熟読しておきたい一冊です。