「そこのみにて光輝く」の感想を少しだけ |      生きる稽古 死ぬ稽古

     生きる稽古 死ぬ稽古

ー毎日が おけいこ日和ー
        

そもそもこの映画は、

「怒り」にちょい役で出ていた池脇千鶴の演技をすごい!

と思った私に、

それならばとオススメいただいたのがきっかけです。

 

1961年から1980年代にかけて、

ATG(アート・シアター・ギルド)という映画会社が活動しておりました。

その映画たちは一言で言うと、

まぁ〜、暗い。

 

でも、文学の香り高く

闇の奥底には、ほの灯りが灯っているような作品もあり、

若い頃の私は、せっせと映画館に通ったものでした。

 

「そこのみにて光輝く」は

そのころの日本映画を彷彿とさせる作品で、

高度成長期において、

まるで取り残されたかのようなバラックに住む

家族が軸をなしています。

 

この映画を若い人たちがみたら、

<ド貧乏な家>に映るんでしょうが、

1960年代の田舎なんて

多かれ少なかれ、まぁみんなこんな感じだったんですよね。

 

私が育ったのも、

戦中は赤線があった界隈のすぐ近くだったので

小さくて暗い家々で

それぞれの家族が身を寄せ合っていたものです。

 

で、映画の中の、このバラックに住む家族は

寝たきりなのに性欲だけがとりとめなくあるお父さん。

そのお父さんの介護をしているといいつつ、人生を諦めているようなお母さん。

一家の家計を支える為に身を売りながら、父親の性欲の処理までしているお姉さん。

めっぽう明るいけれど短絡的な思考しかできない執行猶予中の弟。

こんな家族です。

 

現代の女優さんで、こんな家族のお姉さん役がやれる人は

そうそういないでしょうね。

池脇千鶴、見事なものです!

この役の為に太ったとか、それもさすがです。

 

 

はっきりとした喜怒哀楽ではなく

生きることのどうしようもなさや

うまくいかないやるせなさ、

そして、絶望の中にありながらも

どこか肝が座ったどっしりとしたところ。

言葉には言い尽くせない

実に微妙な役どころですが、

それをするりと体現していました。

 

女優さんって、どんなにがんばっても

女優さんであることが抜けきらない人が多い。

池脇千鶴という人は、

もともとその女優さんらしさがない。

普通にそのへんを歩いていそうな感じの人。

ゴージャス感もないし、

パァッと目立つ感じでもない。

だから役にすんなり入れるのだと思うのです。

 

個人的な好みからは

「ジョゼと虎と魚たち」における

池脇千鶴の方が魅力的だと思ったのですが、

それはまぁ、役どころが違いすぎるからに他なりません。

 

原作では、

この弟は30歳を過ぎているんです。

<いい歳こいたオトナのくせに

子どもじみたところが抜けきれない>

ダメだけれどもどこか憎めないというキャラクターです。

そのイメージからすると

さすがにちょっと若過ぎた感は否めませんが

菅田将暉は<底抜けに明るくて愛すべきアホ>を

演じきっていましたね。

 

主人公の綾野剛は、

<良くも悪くも綾野剛>

という一言です(ゴメン!)

 

 

この映画で注目すべきは

高橋和也という役者でした。

元男闘呼組だった人で、

今はカントリーミュージックなどやっている

ミュージシャンでもあるんですね。

 

映画「怒り」でいい演技をしていた森山未來はダンサーだったし、

役者だけではない人たちの演技って

おもしろい味が出るものなんですね〜。

 

この映画は脚本がとても優れていたのだと思います。

原作通りの筋学ではありません。

よくぞ、あの原作をここまで持ってきたなぁと感心させられます。

原作もいいけど

髙田亮の脚本が素晴らしい

という、まるで「風と谷のナウシカ」状態です。

 

登場人物の設定を変えながら話を進めつつも、

原作の中にある登場人物の個性は潰さずに生かしきっている。

 

前述の高橋和也がやった役は原作には出てきません。

原作にも映画にも登場する松本という男の設定は変えてありますが

人間性はそのままです。

火野正平、まさに適役でした!

 

恋愛と性欲との境がどこにあるのか、

それは定かではないにせよ

男と女が出会ってしまったある瞬間に

カチッとスイッチが入ってしまうことがあります。

 

綾野剛が沖まで泳いで顔を上げると

浜にいた池脇千鶴が沖に向かって泳いできます。

遠くにいる二人の目があった瞬間、

何かがカチッと音を立てます。

 

恋愛シーンにほだされることは

まったくと言っていいほどなかったのですけれど

海でのこのシーンは心を動かされました。

 

 

原作者の佐藤泰志は芥川賞候補に何度も推されながら

自律神経失調症に悩まされ、

41歳で自ら命を絶っています。

全共闘世代の人です。

 

やっぱりATGからすべり抜けてきた映画なのだと思いました。