黒い財布のお話 |      生きる稽古 死ぬ稽古

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ー毎日が おけいこ日和ー
        

仲良くしていただいている年上の女性が
何人か、いてくれます。

これはとてもありがたいこと。

あまり面と向かっては伝えられませんが
彼女たちに対しては
〈尊敬〉とか〈憧れ〉の気持ちを
密かに、そして大切に持っているのです。

そんな女性のお一人がサチコさん(仮名)です。
穏やかで、いつも笑顔で
決して人の悪口を言わない人。

自分の知らないことはそっとメモして
後で調べたりするような
向学心も見習いたいところ。

自慢のしなければ不満も口にしないヒト。

彼女のご主人はお医者様。
息子さんもお医者様。
なのですけれど、サチコさんには
〈お金持ちの奥様〉みたいなところがありません。
いや、そもそもそんな感覚を持ってしまうのは
それこそが庶民の偏見というものなのでしょうが、
ともかく、なんのへだたりもなく
楽しくお付き合いいただいているわけです。

で、ね。
最近、お会いした時に
お金の支払いで、バッグから
ちらりとお財布がのぞいたのです。

黒い長財布でした。
本当に、チラリと見えただけだったのですけれど
それがサチコさんにとてもよく似合っていて
とっても美しかったのです。

私はヒトのお財布を見て
美しいと思ったのは初めてのことでした。

いや、お財布が美しかったのではありません。
サチコさんが持っていること
サチコさんに、そのお財布がとてもとても似合っていると思われたからなのでした。

いや、これと同じデザインではなかった気がする。

が、そのお財布は有名ブランドの黒財布でありました。

サチコさんは、その財布のブランドをひけらかすのを拒むかのように、バッグの中に入れたまま、
そっとお金を出したのです。

が、その控えめな仕草がまた
私には美しく映りました。

年配の女性が
そっと身に付けるブランドの小物。

女性そのものの生き方が素晴らしく
その人が晩年手にしている
高価なブランドの財布。

それがこんなに美しく、
見るものを魅了するなんて思ってもいませんでした。

サチコさんはずっと
ご主人の開業する病院を手伝いながら、
ご両親の面倒をみて
家事をして、子供たちを育て
目の回るような年月を過ごしてきて
そうして今があります。

冬になるとしもやけができるのよ〜〜
とおっしゃる、その手が、
ブランドの黒財布には
とてもよく似合っていました。
その手が財布を触るのが美しかった。

いいもの、高級なもの
というのは、こういう人が持ってこそふさわしい。

サチコさんのお財布を見たのは
ほんの一瞬だったのですが
私はその美しさに魅了されたのでした。

その時から、何度も
私はサチコさんの手と、
その黒財布を思い出しては
小さくため息をついているんです😊