浅草 台東区のピアノ教室
《高島ピアノ塾》主宰、
バレエピアニスト・歌曲伴奏者の
高島登美枝です。
本日もご来訪ありがとうございます。
今日はロマンティックな歌曲
のお話。
フランスの作曲家レイナルド・アーン※1が
詩人テオドール・ド・バンヴィル※2の詩に
付曲した美しい歌曲〈恋する乙女〉。
※1 Reynaldo Hahn(1875-1947)
※2 Théodore Faullain de Banville(1823-1891)
もうタイトルからして
ロマンティックそうでしょ![]()
作曲者アーンは
マスネやサン=サーンスのお弟子で
10歳でパリ音楽院に入学した早熟な天才![]()
この曲の入った歌曲集
《20の歌曲 第1集》は
1892年=アーン17歳の時に
出版されています。
弾いていると確かに
「天才の若書き」的な感じがします。
ちょっと舌ったらずというか、
楽譜は手掛かりでしかないというか、
行間の余白が広くて
こちらの裁量に任されているところが大。
でも、感動のツボを外さないくせに
ハッとさせる意外性もあって、
やっぱり天才だなぁと思います。
・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
ところでこの曲名、
《恋される人》と
訳されることもあるんですよね。
原題は《L'énamourée》。
タイトルが二通り
付けられているくらいですから
要するに日本語に訳しにくい語なのです。
文法的には
「惚れ込む、夢中になる」という動詞が
形容詞化して、
さらに女性名詞化したもの。
…っていきなり
ロマンティックとは程遠い方向に
話がふれてしまい申し訳ない![]()
![]()
・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
雰囲気を戻すため![]()
ざっくり歌詞を訳すとこんな感じ。
======
みんな言うんだ、僕の小鳩ちゃん、
君はもう死んで夢見ながら眠っているって。
墓石の下にいるって。
でも、君を愛する者の魂のために
君は目覚め、よみがえる。
おお、物思いにふける恋人よ。
星の輝く白い夜々、
そよ風の中、
僕は愛撫する、君の長いヴェールを、
揺れる髪を、
半分だけ開いた翼を、
薔薇の上を飛翔する翼を。
おお、うっとりだ! 僕は呼吸する、
君の神々しいブロンドの三つ編みを。
詩を奏でる竪琴のような君の声は
波のうねりをたどり、
そしてかすめる。甘美に。
泣いている白鳥のように。
======
ほんとざっくり訳なので、
文法とかツッコまないように
そこんとこよろしく![]()
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この歌詞を創作したバンヴィルは
ユゴーとヴェルレーヌの
中間くらいの世代の詩人。
文学史上は「高踏派」と呼ばれています。
この詩は1867年に出版された詩集
『流刑者たち』(Les Exilés)に
収録されています。
もろ第二帝政期の作品ですね。
彼は「詩は歌われるべきもの」という考えを
大切にしていたそうです。
ざっくり訳でもわかる通り、
フランス語の原詩は、
6行でできた3節構成です。
3節とも
8音節×4行と
7音節×2行で
押韻もきっちりしていて、
声に出したときに美しく響くよう
作られています。
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死んだ恋人と
空想(回想?)の中で
ひとときを過ごすという設定は
R.シュトラウスの〈万霊節〉と似ていますね。
でも、〈万霊節〉の歌詞は
タイトルからもわかる通り、
眼前の墓地風景と脳内イメージが
対比されていますが、
〈恋する乙女〉の詩は
墓地風景よりも
もっぱら脳内イメージ描写に終始しています。
第1節の墓(la tombe)という単語と、
恋人女性の声の比喩として最終行に登場する、
波間の「白鳥」、
それが「泣いている」(qui se pleure)
という表現から、かろうじて
「死」「あの世」のイメージが伝わりますが、
〈万霊節〉よりもかなり間接的。
しかし、そこはさすがの天才少年アーン![]()
歌の最後の言葉である
「泣く」と言う単語に
Ⅰの和音ではなく増音程(+5)の和音を充てて、
この詩を上手に料理しています。
安定したⅠの終止形に収めさせないことで、
「実はね…この甘美なラブシーンのお相手は
もう亡くなっているんですよ」
ということを
しっかり我々に思い出せてくれるというわけ。
脳内の幸福なイメージと
現実にはもう彼女はいないという落差の
わりきれないもやもや感は
後奏が担うことになっております。
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後奏に限らず、この曲、全体的に、
伴奏が「お墓」「死」のイメージを
担っている気がします。
だいたいDes-durって、
あの世っぽいし。
歌詞が感情的に高揚している箇所でも、
伴奏がそれに
寄り添っていかないんですよね![]()
歌詞内容から伴奏を考えると
不完全燃焼感
に陥るのだけど、
「ああ、私は背景担当なのね
」
と思うと納得![]()
後奏でちゃんと「オチ」をつけるという
重要な役割も担っているので、
〈万霊節〉の伴奏とは
また違ったおもしろさがあると言えます。
・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
↓参考までに
パリの墓地(2017年2月モンマルトル墓地)
これは修論で取り上げた作曲家
アドルフ・アダンのお墓。
写真は冬場なので、
静けさの中にも厳粛さが
際立っておりますが。
墓地の空気には
いろいろな「思い」が
漂っている気配を感じます。
それは死者の思い残しではなく、
むしろ残された生者の感情―
この世ではもはや
永遠に満たされぬことのない
死者への思いや告げられなかった言葉が
行き場をなくして
墓地に集まっている気がします。
この〈恋する乙女〉の詩も
とても美しい言葉を連ねていますが、
言葉の背後には
「かなわない思い」
「割り切れない感情」
が底流のように流れている気がします。
アーンはその辺りを巧みに掬い取って
伴奏パートに織り込んでいると思います。
・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
…というわけで、
この〈恋する乙女〉も〈万霊節〉も
両方聴ける演奏会のご案内。
高島がコンサート全曲の
伴奏を担当いたします![]()
『素晴らしき芸術歌曲の世界」
日時:2019.02.15.(金)18:30開演(18時開場)
場所:台東区立旧東京音楽学校奏楽堂
料金:3,500円
お問合せ・チケットお申込みは
pianoasakusa@gmail.com(高島)まで
改修を終えた旧奏楽堂での演奏会です。
インスタ映えする舞台と
スタインウェイDの響き、
実力派歌手たちによる「オール歌曲」という
アーティスティックこの上ないひとときを
ぜひお楽しみください。
ご連絡お待ちしております![]()
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