今は昔の物語。少々長き話にて候。




ボボボボボボボボボボ!





唸りをあげて荒れ狂う暴風に

身体が持っていかれそうになる。

駄目だ、マトモに立っていられない!

早くこの風から身を守らないと!


激しい横殴りの風に晒され

耳がちぎれそうになる位冷たくて痛い。

一段と視界の悪くなった辺り一面

遮蔽物なんて何ひとつ見当たらない。


唯一

避難出来そうな場所と云えば

ぱっと見まるで何の役にも立ちそうに無い

低く小さな、なんとも頼りの無い岩陰、いや

窪みがひとつ。


尻しか隠せない様な場所だが

とりあえずそこしか場所が無さそうだ。

慌てて移動すると天敵から身を隠す

野うさぎのように這いつくばった。


寒い寒い寒い寒い!

かじかんだ指でザックの中から

必死にダウンを引っ張り出して

その場で着込む。


どうしてこうなった?

さっきまであんなに美しくて気持ちの良い

秋山登山だったのに・・・




 

猪苗代湖のちょいと北の方に
連なる吾妻連峰、のひとつ

「一切経山」いっさいきょうざん

平安時代の武将「安倍貞任」あべのさだとう
がこの山に「一切経」って云う経典を

埋めたっつーんでこの名前がついたそうで


標高1,948m

頂上は火山の影響で樹木は無く

ぐるりと景色を見渡す事が出来る。

魔女の瞳と称される湖「五色沼」の

ビューポイントとして最高の立地である。

な・の・に・10年以上経った今現在、


湖の事などキレイさっぱり忘れていた。

そして何故、湖の事を忘れていたのか 

やっと思い出した。


そうだ。

あの時私は結局、

湖を見る事が出来なかったのだ。





今を遡ること12年前。

当時登山を始めたばかりの

駆け出しだった私はこの頃

初心者から更なるステップアップを目指し

少し遠くの県外で

そこそこ標高のある山を、

どうせなら紅葉と噂の美しい湖を眺めて

やんべぇ〜と山友を誘い2人パーティで

意気揚々と福島県の一切経山に挑んだ。



浄土平をスタートしてしばらく

平坦な木道を歩く道のりは爽やかで

とても気持ちがいい。


酸ヶ平を過ぎて

いざ一切経山へ登り始める、という矢先に

下山してくる4~5人のパーティとすれ違った


彼らのその格好たるや皆一様にグローブに

ゴーグルとポール、まるで一昔前の

スキーヤーの様な全身モコモコな

出で立ちで、あまりにも重装備だったので

山友と顔を見合わせると


「超寒がり過ぎなんじゃね?」と


ココロの中でツッコんだ。

なにせこちとらネルシャツ一枚で

充分快適なんですけど。


傍目で彼らを見送るとそのまま

何の疑いも無く登山を開始した。


だがこの時

もう少し考えるべきだったのだ。

下山してきた彼らが何故あの様な

格好だったのか、と言う事を


少し登っては振り返る
遠くにチラ見えしてるのは鎌沼



更に上へ上へと登って行くと

JOJO徐々に風か強くなってきて

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
だんだん気温が下がってくる。
いつの間にか吐く息が白くなり、
アレ?
と、気が付いた頃には時すでに遅し。
とうに我々は激しい暴風の真っ只中に
飛び込んでしまっていたのだ。

そして
冒頭の様な状況に陥ったのである。

岩陰でアウターを着込みながら
山友と相談した結果、今から出発して
もう少し登ってみてこれ以上危険に
なる様だったら即下山する、
という意見で一致した。

何も用意せずに素手の相方には
防寒手袋とトレッキングポールをそれぞれ
片方づつシェアして登山再開。
この時うっかりポールを素手で触ったら
冷たさの余り手の皮膚がポールに
くっつきそうになりあわてて手放す。
なんてこったい、さっきの重装備の意味が
ようやくわかってきたゼ。

長年愛用のLEKIのトレッキングポール
登りを支え下りは膝を守り平地に於いては
推進力のサポートとなり残雪期の踏み抜き防止の
確認の杖に変身。頼りになる万能アイテム。
お陰様で添え木にした事は未だ無い。

1本のポールで身体のバランスをとりながら
強風に耐えつつ頂を目指す。

視界が悪く頂上がどの辺か確認出来ないが
恐らくそれ程遠くはないハズ
ゴールが不明瞭だと色々不安になってくる。
士気やペース配分にも影響してくる。

暴風の起こす爆音が邪魔をして
相方と会話をするにもいちいち
身を寄せ合わねばならず
不安になりそうな気持ちを抑えて

お互い無言でひたすら上を目指す。





だがそれも束の間、しばらくすると
風はだんだんと収まってきており
随分と緩くなっている。
と、意識しない内にぬるっと頂上に到着、
していた。

この時
互いに登頂の達成感よりも
危機から脱した事への脱力感の方が
よっぽど大きかった。

なにせご褒美のパノラマビューは
ガスの所為で見れない事は
途中で気付いてしまっていたからだ。

そんなもんだから
緊張感をやや残し
身構えたまま、頂上を散策する。


空気大感謝塔にて記念撮影

繰り返すが
頂上はガスっていて視界はほぼゼロ。
足元のガレ場しか見えない。
当然ながら五色沼を眺める事も叶わなかった。

これ以上何も得られないとなれば

こんなトコロに長居は無用!


疲労したカラダに鞭打って

ポンポンポンと軽快に下山を始めた。


いまだ風は凪いでいる。

が、いつまた先ほどの暴風が

吹き始めるとも限らない。急いで下山だ!


急ピッチで駆け下りて

先刻必死になって着替えた場所の

近くまで戻ってきた。


するとなんと!Σ(゚д゚;)
茂みの枝が凍りついているヨ!
どーりで寒いハズだよ!

ガイドのロープを見るとギザギザの
変わった形の氷が付着している。
俗に「エビのしっぽ」と呼ばれるモノで
風の影響で付着した氷が風上である
横方向へと成長する現象。
おもに樹氷などによく見られる。
これだもの、さっきの暴風が
どれ程の酷さか、わかるってもんだ。

ファンタジーで例えるなら
アイスドラゴンのコールドブレス。
一切経を枕に凍死しなくて本当に良かった。



そこから更に下界に近づくと急に天候も
穏やかさを取り戻し、登山開始時の風景に
戻りつつあった。

視界も晴れてきて、おもむろに左手側に
吾妻小富士のお鉢が現れた。

ゆっくりと雲がうごき光が差す
空気は清浄にして躰は冷気に包まれ
神々しい大地を真っさらになった
私が踏みしめる

私にとっては良くも悪くも
冒険のような登山でした。
この時の体験は色々と勉強になりました。
備えあればなんとやら


以来、
兎にも角にも山登りは
ただひたすら
「自己責任」
のひと言に尽きる、と
思うのであります。







無事下山して
絶景不足の私

素晴らしい紅葉で一応完了

今回。
とあるブログを読んだのがキッカケで
懐かしくなりアルバムを紐解いて。

12年前に撮影した幾枚もの写真達。
度重なる機種変によりその殆どが失われ
奇跡的にSDカードに僅かに残っていた
データが過去の記憶を呼び覚ましてくれた。

初心忘るべからず、でやんす

これからの冬山シーズン
皆様くれぐれもお気を付けて
お楽しみくださいませ
(´>؂∂`)テヘペロ!