「ジングルベール♪ジングルベール♪・・・」
140センチのクリスマスツリーのオーナメントをポンと指ではじくとコタツの中に足を入れる。
その顔はクリスマス・イブだと言うのにつまらなそう。
「はぁ・・・」
重いため息を一つ吐くとゴロッと寝そべった。
つまらないな・・・。
テレビは点けっぱなし。
どこのチャンネルもクリスマス特集。
「杏梨、本当に一緒に行かないの?」
オリーブグリーンのシックなワンピースを着た母、貴美香が居間に現れた。
「ママ、恋人たちのクリスマスを邪魔するほど野暮じゃないからね?」
モソッと起きてコタツの上のミカンを一つ取る。
「春樹さん、杏梨も一緒にって言ってくれているのよ?」
「うん 春樹おじさんは優しいから でもわたしは家にいる方がいいの」
むいたミカンをひとつ、口に放り込む。
その時、インターフォンが鳴った。
「ほら、春樹おじさん、来ちゃったよ?」
「え、ええ・・・」
杏梨を1人で残して行く事が気がかりで表情は浮かない。
「早くっ!楽しんできてね♪」
にっこり笑って送り出す。
貴美香はしぶしぶブラウンのカシミアのロングコートを羽織り出かけて行った。
クリスマス・イブの今日、わたしにも予定はあったんだよ。
親友の香澄ちゃんと我が家でクリスマスパーティー。
それがさっき、熱が出て来られなくなったと香澄ちゃんから電話があったの。
とても残念そうな香澄ちゃんの声は擦れていた。
今夜はお泊りでたくさん話をしようねって言っていたんだけど・・・。
今日を楽しみにしていた杏梨はお昼頃から用意に励んでいた。
冷蔵庫の中にはサンタさんの飾りが可愛いクリスマスケーキが入っている。
それに下ごしらえしたチキン。
大きめに切ったお野菜とチキンをオーブンで焼くばかりだった。
1人じゃ食べる気も起こらないよ・・・。
ミカンをもう一つ食べ終わると再びコタツの中へもぐりこんだ。
どの位経ったのだろうか、しつこく鳴るインターフォンの音で杏梨は目を覚ました。
自分がどこに居るのか一瞬分からなかった。
頭がまだ眠っていて身体を起こしたもののテーブルに伏せる。
~~~♪~~~♪
テーブルの上の携帯電話が鳴った。
きっとママだ。
心配してかけてきたんだ・・・。
手だけ伸ばして目を瞑ったまま携帯電話を耳に当てた。
「ママ、大丈夫だよ」
電話に出るとのんびりした声で出る。
クスッと笑う男の声がした。
『何が大丈夫なの?』
笑い半分が含まれた声に杏梨は飛び起きた。
「ゆきちゃん!!」
『もしかして寝てた?』
「う、うん」
何時なんだろうと首をめぐらし壁にかかった時計を見る。
じゅ、10時~!?
4時間も寝ちゃったんだ・・・。
『これから行ってもいいか?』
「ほんと!?」
一番会いたかった人に言われて杏梨の声が弾む。
『ケーキ買ってから行くよ』
「ゆ、ゆきちゃん!ケーキはあるのっ」
『分かった じゃあ、30分以内に着くから』
さっきまでつまらなかったクリスマス・イブは最高のクリスマス・イブに変わった。
ゆきちゃん、ご飯食べたのかな。
杏梨はいそいそとキッチンへ行くと冷蔵庫から下ごしらえ済みのチキンとお野菜をオーブンにセットした。
それからコタツのテーブルの上を片付けて、テーブルクロスを敷く。
雪哉が来る頃にはキッチンから鶏肉の焼ける香ばしい匂いが漂い、テーブルには昼間焼いた丸いパンとクリスマスケーキ、ジュースが用意された。
インターフォンが鳴り急いで鍵を開けに行く。
ドアを開けると黒のヘルメットを小脇に抱えた雪哉が立っていた。
続く