第4話・前編:爆弾を抱えて実家へ。上品な義母の仮面が剥がれる瞬間
弁護士事務所での息詰まる面談から数日後、木曜日の夕方。
夫の健一から、震えるような声で「明日、実家に行って母さんと姉貴を説得してくる」とLINEが入った。弁護士の先生から突きつけられた【金曜日までの期限】がいよいよ明日に迫っていたのだ。
自分の破滅か、それとも実家を売らせるか。【地獄の二択】を迫られたイエスマンの夫は、ついに重い腰を上げざるを得なくなったらしい。
「私は行かない。あなたが一人でケジメをつけてきなさい」
そう返信したものの、私は最初から夫を信用していなかった。あの頼りないマザコン男が、あの強烈な義母と義姉を前にして、本当に「家を売れ」なんて言えるはずがない。
だから私は、翌日の金曜日、パートを急遽休んで密かに夫の後を追った。すべてを自分の目で確かめるために。
懐かしい、しかし今や忌々しさしか感じない義実家の一軒家。駅からほど近いその古い住宅のインターホンを夫が押すのを、私は少し離れた電柱の陰から見つめていた。
ドアが開き、中から出てきたのはお義母さんだった。いつも通り、仕立ての良さそうなブラウスを着て、上品に微笑んでいる。何も知らないお義母さんは、息子を迎えて嬉しそうに家の中へと招き入れた。
私は足音を忍ばせ、義実家の古い庭の垣根越しに、リビングの窓のすぐ近くまで身を潜めた。幸いにも、風を通すためか窓がほんの少しだけ開いており、中の声が筒抜けになっていたのだ。
『健一、急にどうしたの? 美咲さんや子どもたちは?』
お義母さんののんきな声が聞こえる。そして、低く沈んだ夫の声が続いた。
『母さん……。今日は、大事な話があって来たんだ。姉貴は? 上にいるの?』
『あら、お姉ちゃんなら奥の部屋で寝てるわよ。それより大事な話って何?』
ゴクリ、と夫が唾を飲み込む気配が外まで伝わってくるようだった。健一は意を決したように、弁護士の書類を机に叩きつけた。
『これを見てくれ。姉貴がまたサラ金から420万円借金して、俺を無断で連帯保証人に指定してたんだ。債権回収会社から一括請求が来てる。……美咲にも、全部バレた』
『えっ……!?』
一瞬の沈黙の後、お義母さんの短い悲鳴が響いた。しかし、次の瞬間にお義母さんから飛び出した言葉は、私の想像を絶するものだった。
『ま、またあの子そんなことを……! でも健一、美咲さんには「ただの勘違いだった」って言って上手く誤魔化せなかったの!? 夫婦なんだから、あなたが優しく宥めれば丸く収まるでしょ!』
(……は?)
垣根の陰で、私は怒りのあまり奥歯がガタガタと鳴るのを感じた。420万円もの大金を、妻を騙して誤魔化せ? これが、今まで上品ぶって私に接してきた人間の本性か。
『無理だよ母さん! 美咲はもう弁護士を立てたんだ!』
健一が声を荒らげる。
『俺がこの420万円を払うか、実家で金を工面しないなら、美咲の弁護士は俺個人を徹底的に訴えるって言ってるんだ! 給料も差し押さえられて、俺は会社にいられなくなる! 自己破産するしかないんだよ!』
『そんな……! 健一が自己破産なんてしたら、藤本家の恥じゃないの! 近所に顔向けできないわよ!』
お義母さんの声から「上品な仮面」が完全に剥がれ落ち、ヒステリックな金切り声へと変わっていく。
『だったら、母さん、この家を売ってくれ!!』
ついに、夫が爆弾を炸裂させた――。
――第4話・中編へ続く。
✍️ 管理人より
ついに実家へ乗り込んだ夫!そしてそれを密かに追った美咲さん、ナイス判断すぎます!それにしても義母の発言、「美咲さんを上手く誤魔化せなかったの?」には本当に開いた口が塞がりません…。自分の娘が仕でかした大罪を、嫁を騙して揉み消そうとするなんて、どこまで身勝手な親なのでしょうか。
💡 ついに夫から「家を売ってくれ」と告げられた義母ですが…
- 世間体ばかり気にするこの義母が、大人しく息子の頼みを聞き入れると思いますか?
- そして、奥の部屋で寝ているという「諸悪の根源」の義姉は、一体どんな態度で出てくるでしょうか?
全7話の第4話(前編)、ついに義実家との直接的な全面戦争の火蓋が切って落とされました。義母がさらに狂い始める中編も、ぜひフォローしてお待ちください!