第1話・前編:愛する夫の引き出しから見つかった、見慣れない「債権回収会社」からの封筒
「ねえ健一、これ……一体どういうこと?」
土曜日の午後。私はリビングのテーブルに、通帳ほどの大きさの茶封筒をぽんと置いた。
ソファーで寝転がってスマホを見ていた夫の健一が、怪訝そうに顔を上げる。しかし、封筒の表に印刷された文字が目に入った瞬間、彼の身体が目に見えて硬直した。
そこに書かれていたのは、聞き覚えのない【〇〇債権回収株式会社】という文字。そして赤字で大きく捺された【督促状】の三文字だった。
「……どこで、これを見つけたんだ」
健一の声は、これまでに聞いたことがないほど低く、張り詰めていた。
「書斎の引き出しよ。健一に頼まれてた古い契約書を探してたら、一番奥から出てきたの。勝手に見たことは謝るわ。でも、これ、何?」
私たちは結婚して20年になる。
健一は真面目で優しく、派手な趣味もない。お小遣いが少なくても文句ひとつ言わず、いつも私や子どもたちのことを最優先にしてくれる、自慢の夫だった。
ギャンブルもしない、お酒も付き合い程度。そんな夫の持ち物から「債権回収」なんて物々しい言葉が出てくるなんて、夢にも思わなかった。
「……なんでもない。俺の個人的な問題だ。美咲には関係ないから」
健一は封筒をひったくるように奪うと、ポケットにねじ込んだ。
「関係ないわけないでしょ!」
私は思わず声を荒らげた。心臓が嫌な音を立ててバクバクと脈打っている。
「督促状の下に、これまでの返済履歴のメモが入ってたわよ? 毎月、何万ものお金がどこかに振り込まれてる。それも、私たちが結婚した20年前からずっと!」
健一は唇を噛み締め、床を見つめたまま一言も喋らなくなった。
「借金があるの? ねえ、いくらあるの? どうして20年間も私に隠してたの!?」
私の問いかけに、健一はただ「すまない」と小さく呟くだけで、それ以上の理由は頑なに口にしようとしなかった。
その夜、私たちは一言も口を利かなかった。
同じベッドに入っても、背中合わせのまま、お互いが起きているのがはっきりと分かった。
「20年間、私は騙されていたのだろうか……」
信じていた日常が、足元から音を立てて崩れていくような恐怖と不信感で、私は一睡もできないまま朝を迎えた。
翌日、日曜日。まだ朝の8時。
どんよりとした空気のリビングに、突然、玄関のインターホンが激しく鳴り響いた。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン――。
まるで住人を急かすような、異常な連打。
嫌な予感を抱えながら私がドアを開けると、そこには肩を激しく上下させ、目を真っ赤に腫らした義母の姿があった――。
――第1話·中編へ続く。
✍️ 管理人より
20年間信じてきた優しい夫の引き出しから、突然見つかった「借金の督促状」。理由も話してくれない夫への不信感が募る中、物語は急展開を迎えます。
💡 もしみなさんなら、この時点で夫をどう問い詰めますか?