【67歳、もう恋なんてしないと思っていた】第5話
「遺産はどうなるの?」娘が泣き、息子が怒った家族会議の夜

覚悟を決めた日

佐藤さんから「残りの人生を一緒にいてくれませんか」と言われてから三週間が過ぎていた。

私は答えを出せずにいた。

気持ちは決まっている。

一緒にいたい。

これから先の人生を共に歩みたい。

そう思っていた。

しかし。

現実は簡単ではなかった。

娘と息子の存在があった。

私は二人を傷付けたくなかった。

だが。

自分の人生も諦めたくなかった。

何度も悩んだ末に。

私は決めた。

逃げるのはやめよう。

ちゃんと話そう。

そう思ったのだ。

家族会議

日曜日の午後。

娘夫婦と息子が私のマンションへ集まった。

部屋の空気は重かった。

全員が今日の話題を知っている。

テーブルにはお茶が並んでいた。

しかし誰も手を付けない。

最初に口を開いたのは私だった。

「今日は聞いてほしいことがあります」

娘は黙っていた。

息子も腕を組んでいる。

私は深呼吸した。

そして言った。

「佐藤さんと将来を考えています」

沈黙。

部屋が凍り付いたようだった。

娘の涙

最初に反応したのは娘だった。

「やっぱり…」

そう呟いた。

そして突然。

涙を流し始めた。

私は驚いた。

怒ると思っていた。

泣くとは思わなかった。

娘は涙を拭きながら言った。

「お母さんが心配なの」

「もし騙されていたらどうするの?」

「病気になったら?」

「介護は?」

「何かあったら誰が責任を取るの?」

その言葉を聞いて。

私は初めて気付いた。

娘は反対しているのではない。

怖いのだ。

私を失うことが。

傷付くことが。

怖いのだ。

息子の本音

すると今度は息子が口を開いた。

いつも冷静な息子だった。

しかしこの日は違った。

少し感情的だった。

「正直に言うよ」

私は黙って聞いた。

息子は続けた。

「相続のことも気になる」

娘が顔を上げた。

私も驚いた。

息子は正直だった。

「財産がどうこうじゃない」

「でも再婚したら話は変わる」

「後で揉めるのは嫌なんだ」

私は複雑な気持ちになった。

確かに現実問題として存在する。

再婚すれば法律も変わる。

相続も変わる。

それは事実だった。

初めてぶつけた本音

私は静かに言った。

「分かってる」

二人は黙った。

私は続けた。

「でもね」

「お母さんも人間なの」

気付けば涙が出ていた。

私はこんな風に本音を言ったことがなかった。

いつも母親だった。

いつも我慢する側だった。

でもその日は違った。

「離婚した時、本当に苦しかった」

「自由になったのに寂しかった」

「夜中に体調を崩したら怖かった」

「誰とも話さない日もあった」

声が震えた。

娘も泣いていた。

息子も目を伏せていた。

私は続けた。

「私はまだ生きてるの」

「人生が終わったわけじゃない」

「幸せになりたいと思っちゃいけないの?」

部屋が静まり返った。

沈黙のあとに

長い沈黙だった。

数分だったかもしれない。

でも私には何十分にも感じた。

そして。

娘が小さな声で言った。

「そんな風に思ってたんだね…」

私は頷いた。

娘は泣いていた。

息子も深いため息をついた。

そして言った。

「お母さんの気持ちは分かった」

私は胸が熱くなった。

しかし。

話はまだ終わっていなかった。

思いがけない提案

その時だった。

娘が言った。

「一度会わせて」

私は聞き返した。

「え?」

娘は真剣だった。

「佐藤さんに会いたい」

「ちゃんと話したい」

息子も頷いた。

「俺も」

私は驚いた。

反対されると思っていた。

だが違った。

二人は確かめたいのだ。

母親を任せられる人なのかを。

私はゆっくり頷いた。

そして数週間後。

運命の日がやって来る。

娘。

息子。

佐藤さん。

全員が顔を合わせる日だ。

その席で。

私たちの未来が決まることになる。

(最終話へ続く)


■管理人より

シニア再婚で避けて通れないのが相続や介護の問題です。

しかし、その前に大切なのは家族同士が本音を話し合うことかもしれません。

感情だけでも、法律だけでも解決できない問題だからこそ難しいのです。


■体験談募集

・親の再婚を受け入れた経験
・相続への不安
・家族会議で本音を話した話
・シニア婚に対する考え

皆さまの体験談を募集しております。