【67歳、もう恋なんてしないと思っていた】第4話
「残りの人生、一緒にいてくれませんか」70歳の告白に涙が止まらなかった
会えない時間が増えた
娘と息子の反対を聞いてからというもの、私は以前のように佐藤さんと会えなくなっていた。
会えば楽しい。
話せば安心する。
一緒にいると自然に笑える。
それなのに。
心のどこかでブレーキを踏んでいた。
もし子ども達の言う通りだったら。
もし私が騙されていたら。
そんな考えが頭から離れなかった。
佐藤さんも気付いていたのだろう。
以前より連絡が減った。
無理に誘うこともしなかった。
だから余計に苦しかった。
距離を置けば気持ちも冷めると思っていた。
だが現実は逆だった。
会えないほど会いたくなる。
話せないほど声が聞きたくなる。
そんな自分に戸惑っていた。
一本の電話
十一月のある日だった。
夕方、スマートフォンが鳴った。
画面には佐藤さんの名前。
私は少し緊張しながら電話に出た。
すると。
いつも穏やかな声が少し弱々しかった。
「もし時間があったら会えませんか」
私は胸騒ぎがした。
翌日。
私たちはいつもの喫茶店で会った。
しかし佐藤さんの顔色は明らかに悪かった。
頬が少しこけている。
笑顔にも力がない。
私は思わず聞いた。
「大丈夫ですか?」
すると彼は静かに言った。
「実は検査を受けましてね」
私は息を飲んだ。
病院で言われたこと
幸い命に関わる病気ではなかった。
だが心臓に持病が見つかったという。
今すぐどうこうではない。
しかし年齢を考えれば油断できない。
定期的な通院も必要になる。
そう説明されたらしい。
私は黙って聞いていた。
病気そのものより。
彼の表情が気になった。
どこか寂しそうだった。
不安そうだった。
そして彼はぽつりと言った。
「妻が亡くなった時を思い出しました」
その言葉に胸が締め付けられた。
十年以上介護を続け。
最愛の妻を看取った人だ。
その経験は簡単に消えるものではない。
私は初めて彼の孤独の深さを知った気がした。
一人で生きるということ
その日。
私たちは長い時間話した。
老後のこと。
病気のこと。
子どものこと。
亡くなった後のこと。
若い頃には考えなかった話ばかりだった。
そして気付いた。
私たちは恋愛をしているだけではない。
人生を共有しているのだ。
残された時間は若い頃ほど長くない。
だからこそ。
一緒にいる時間が貴重だった。
彼は言った。
「夜中に体調が悪くなった時があるんです」
「その時、一人は怖いと思いました」
私は返事ができなかった。
なぜなら。
私も同じことを考えていたからだ。
友人の葬儀の帰り道。
一人暮らしの不安を感じた日のことを思い出していた。
突然の告白
店を出た後。
近くの公園を歩いた。
木々は紅葉していた。
風は冷たかった。
しばらく無言だった。
そして。
佐藤さんが立ち止まった。
私も足を止めた。
彼は少し緊張した顔をしていた。
七十歳の男性が。
まるで若者のように緊張していた。
その姿が少し可愛らしく見えた。
そして彼は言った。
「残りの人生、一緒にいてくれませんか」
私は息を止めた。
言葉が出なかった。
彼は続けた。
「再婚という形にこだわらなくてもいい」
「でも一人で生きるより」
「あなたと一緒にいたいんです」
私は涙が出そうになった。
こんな言葉を。
この歳になって聞くとは思わなかった。
亡き夫との違い
帰宅後。
私は一晩中眠れなかった。
夫との結婚生活を思い出していた。
若い頃は幸せだった。
だがいつしか。
夫婦は役割になっていた。
感謝も会話も減っていった。
気付けば。
私は妻ではなく家政婦になっていた。
それに対して佐藤さんは違った。
私を一人の人間として見てくれる。
話を聞いてくれる。
感謝してくれる。
一緒に笑ってくれる。
そんな当たり前のことが。
私には新鮮だった。
しかし最大の壁が残っていた
私は答えを出せなかった。
気持ちは決まっている。
本当は一緒にいたい。
でも。
娘と息子の顔が浮かんだ。
きっと反対する。
いや。
間違いなく反対する。
再婚。
相続。
財産。
介護。
問題は山ほどある。
私一人の気持ちだけでは決められない。
しかし。
人生は一度しかない。
残された時間も限られている。
私は大きな選択を迫られていた。
数週間後。
家族全員を巻き込む話し合いが開かれることになる。
そしてその席で。
私は初めて子ども達に本音をぶつけることになるのだった。
(第5話へ続く)
■管理人より
シニア世代の恋愛は「好き」という感情だけでは進めません。
健康、介護、住まい、相続。
現実的な問題と向き合う必要があります。
だからこそ、本気の想いが試されるのかもしれません。
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