【夫が定年退職した日】第1話
定年後、夫が毎日家にいるようになって私の人生が壊れ始めた
夫が定年退職した日のことを、私は今でも忘れられません。
玄関のドアが開き、花束を抱えた夫が笑顔で帰ってきました。
「今日で終わりだ!」
そう言って嬉しそうに靴を脱ぐ姿を見ながら、私は拍手をしました。
四十年以上働いてきたのです。
本当にお疲れさま。
その時は心からそう思っていました。
まさか、その日から私の人生が少しずつ壊れていくとは思いもしませんでした。
夢だったはずの定年生活
夫は大手企業に勤めていました。
朝早く家を出て、帰宅は夜遅く。
平日はほとんど顔を合わせません。
休日も接待ゴルフや会社の付き合いが多く、家にいる時間は限られていました。
私は専業主婦として二人の子どもを育てました。
家計をやりくりし、親の介護もし、子どもを大学まで送り出しました。
振り返れば、あっという間の四十年でした。
だから定年後は。
夫婦で旅行したり。
温泉へ行ったり。
ゆっくり食事を楽しんだり。
そんな老後を想像していました。
夫も同じことを言っていました。
「これからは二人で好きなことをしよう」
その言葉を信じていたのです。
異変は一週間で始まった
最初の数日は良かったのです。
夫も解放感に満ちていました。
朝寝坊をし。
テレビを見て。
昼からビールを飲む。
長年働いてきたご褒美のような時間でした。
しかし一週間もすると様子が変わりました。
夫は突然こう言ったのです。
「昼飯まだ?」
時計を見ると午前十一時。
私は驚きました。
それまで夫は昼食を自分で用意したことがありません。
会社では社員食堂。
休日は外食。
だから当然のように私が作るものだと思っていたのでしょう。
私は急いで用意しました。
しかしそれが始まりでした。
朝食。
昼食。
夕食。
おやつ。
飲み物。
すべてを要求される生活が始まったのです。
一日中監視される生活
もっと辛かったのは別のことでした。
夫が一日中家にいるのです。
私が掃除をしていると。
「そこ汚れてるぞ」
洗濯をしていると。
「まだ終わらないの?」
買い物から帰ると。
「何買った?」
家計簿を見ていると。
「無駄遣いしてないか?」
まるで監視されているようでした。
私は今まで自由だったのです。
平日は自分のペースで家事ができました。
友人とランチへ行くこともありました。
図書館へ行ったり。
カフェで本を読んだり。
それが私の楽しみでした。
しかし夫は。
私が外出しようとすると聞いてきます。
「どこ行くの?」
「何時に帰るの?」
「誰と会うの?」
私は徐々に息苦しくなりました。
夫は家の王様だった
ある日のことです。
私は友人とのランチへ行く予定でした。
一か月前から約束していた大切な日です。
久しぶりに会う友人もいました。
楽しみにしていました。
ところが当日の朝。
夫が言ったのです。
「昼飯は?」
私は言いました。
「冷蔵庫に作ってあるよ」
すると夫は不機嫌そうな顔をしました。
「温かいもの食べたいんだけど」
私は耳を疑いました。
六十五歳にもなって。
電子レンジすら使わないのです。
結局私は出発前に昼食まで作りました。
友人との待ち合わせに遅れました。
その帰り道。
涙が出ました。
私は何をやっているのだろう。
夫は会社を辞めただけです。
なのに。
私は二十四時間勤務の家政婦になったような気分でした。
娘から言われた衝撃の一言
そんな生活が半年ほど続いた頃。
娘が帰省してきました。
夕食の後。
私は何気なく愚痴をこぼしました。
すると娘は真顔で言ったのです。
「お母さん、それモラハラじゃない?」
私は笑いました。
まさかと思ったからです。
しかし娘は続けました。
「お母さん最近全然笑わないよ」
「前より痩せたし」
「顔色も悪い」
私は何も言えませんでした。
自分では気付いていなかったのです。
でも確かに。
最近楽しいと思うことがありませんでした。
夫が家にいるだけで緊張する。
夫の機嫌を気にする。
夫の昼食を考える。
夫の夕食を考える。
そんな毎日でした。
その夜。
布団の中で私は眠れませんでした。
そして初めて考えたのです。
この生活をあと二十年続けるの?
と。
答えはすぐに出ませんでした。
でも。
私の中で何かが動き始めていました。
(第2話へ続く)
■管理人より
定年退職は夫にとって人生の節目ですが、同時に妻の生活も大きく変わります。
「夫が家にいるだけなのに辛い」
そんな悩みを抱える女性は少なくありません。
長年別々のリズムで生活してきた夫婦だからこそ、定年後に新たな問題が生まれることもあります。
■体験談募集
・定年後の夫との生活
・熟年離婚を考えた経験
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