
治療薬による悪化は時に気付きにくいこと
精神科薬に限らず大抵の薬には副作用がある。漢方薬は天然由来なので副作用がないと思われがちだが、決してそうではない。以下はAIによる漢方の副作用について。
胃の不調:吐き気や下痢
皮膚の症状:発疹やかゆみ
偽アルドステロン症:甘草(かんぞう)という成分で、むくみや血圧上昇、手足のしびれが起きる
間質性肺炎:黄芩(おうごん)などの成分で、空咳や息切れ、発熱が起きる
肝機能障害:全身のだるさや黄疸(おうだん)が出る
特に間質性肺炎は重篤な副作用である。また、漢方薬は長期に服用すると効きにくくなる傾向がある。また、複数の漢方薬を服用していると生薬が重複することがあることも注意したい。
認知症でしばしば処方される抑肝散は甘草が含まれており上記、偽アルドステロン症を惹起するリスクがある。
精神科の西洋薬の場合、効果の方角が精神なのでそれに明らかに沿わない副作用は医師も認知しやすい。例えば中毒疹、ふらつき、口渇、便秘、体重増加。手指振戦、倦怠感などである。
また、精神に近いが本人が訴えやすい副作用もわかりやすい。眠さや不眠などである。
このブログのリスペリドンのテーマ、最初の記事(リスパダール)に以下のような記載をしている。以下、一部抜粋。
リスパダールが発売された当初、最も驚いたのは、これを服用した時に悪化する人が随分といたことである。それまで精神科薬物を服用して元の精神症状を悪化させる可能性がある薬物は限られていた。添付書類を見るとわかるが、たいていの抗精神病薬の副作用として精神面の変調は記載してある。しかしそんな副作用は実際はあまりないのだ。警戒しなくてはいけなかったのは、クロフェクトン、オーラップ、PZCなどの賦活系の薬物。それ以外の薬物はあまり注意しなくても良かった。しかしリスパダールを処方すると、本来の症状を悪化させうるので、変更の時に決断が必要だった。ある患者さんは、ある時、血だらけで来院した。痒いからと言いカッターナイフで肌を切り刻んでいた。もともとそんな風な患者ではないのに、リスパダールを使っただけでこれだ。こんな風な事態は非定型抗精神病薬を使う限り、基本的に覚悟しておかないといけない。何度か痛い目にあうと、次第にリスパダールは使い辛くなる。しかしよい薬であるのは間違いないので、徐々に新規の処方を再開しリスパダールを処方する人数が多くなっていった。
これは精神症状に対して治療薬を処方しているのに、その方角の精神症状を悪化させると言う特別な副作用?である。
抗精神病薬は自分の場合、定型抗精神病薬しかない時代から診療を始めたので、定型と非定型抗精神病薬の間のギャップと言うかある種の違和感があるが、今の若い精神科医はどのような感触なのだろうか?と時々思う。
定型抗精神病薬は錐体外路系の副作用が多いが、精神そのものを悪化させることがあまりないことは、非定型抗精神病薬の精神への悪影響に気づきやすい点だと思う。
いつかも記載したが、最も良くないのは、抗精神病薬による悪化に気付けず、他の抗精神病薬を追加処方することである。
ここで注意したいのは、非定型抗精神病薬による精神面の悪化に対し、定型抗精神病薬(ハロペリドールなど)を追加した際になにがしか良くなったりすること。精神科医は、「この人は難治性なのでこのような併用も必要」と判断しやすい。このような経過の時、まだ定型抗精神病薬単剤処方の方がずっとマシである。理想的には、悪化させている非定型抗精神病薬を他の非定型抗精神病薬へ切り替え、それがフィットするのが最も良い。
このように考えると、経験が少ない精神科医であればあるほど、抗精神病薬は単剤処方に努めると言う方針は極めて正しい。
なお、僕は患者さんによれば、非定型抗精神病薬でさえ、難治性の人には併用療法が必要なことがあると言う考え方である。これは最も理想的な統合失調症への抗精神病薬がクロザピンであることといくらか整合性がある。(クロザピンは多くのレセプターに作用するタイプ)
現在、外来では抗精神病薬は基本2剤までに処方制限されているので、このような失敗を多少は抑制していると思う。
入院では治療の難しい人を対象にしているためか、この2剤制限がない。従って経験が少ない精神科医が治療すると、薬が噛み合わず悲惨な併用療法になっていたりする。
抗精神病薬は幻覚や妄想など精神症状そのものに作用する薬である。これは当初、気付きにくかったとしても、試行錯誤しているうちにその薬が精神面を悪化させていることに気付くチャンスがある。
精神面への悪影響も、イライラ感、怒りっぽさ、不眠など軽微なものから、幻覚妄想そのものの悪化まで多様である。精神症状の悪化の場合、前者の軽微なものの方がむしろ認知しやすい。幻覚妄想は処方した瞬間に効くわけではないし、しばらく経過を診る必要もあるので、悪影響の確認が遅れると長患いになりやすい。
抗精神病薬ではない向精神薬、例えばアリセプト(ドネペジル)は、しばしば精神症状を悪化させる。これは興奮しやすい、怒りっぽいなど賦活系の悪化である。しかし認知症そのものにBPSDと言う精神症状があるので、そのようなことが起こり得るという治療イメージが必要だと思う。
このBPSDとは、認知症による脳の障害(中核症状)を背景に本人の性格、体の不調、周囲の環境などが影響し出現する不安、幻覚、徘徊、暴言などの精神・行動の症状である。
つまりアリセプトのこの有害作用は、同じ認知症の症状のラインに載っているのである。だからこそ、治療イメージが必要だと思う。なお、認知症に対する薬でも、メマンチンや抑肝散はBPSDをかえって悪化させることはほぼない。
不安に使われるベンゾジアゼピンとSSRIは、ベンゾジアゼピンは同じ不安に沿った副作用が皆無であることに対し、SSRIはそうではない。つまりSSRIは不安、緊張をかえって悪化させることがある。ただし身体への副作用や依存性に関してはベンゾジアゼピンは遥かにSSRIに比べ劣るので、徐々に処方が控えられている。
ベンゾジアゼピンやSSRIはコミュニケーションがかなり取れる患者さんを対象にしているので、このような副作用が出たとき、わりあい速やかに対応できるのが良い。服薬してかえって悪化した時、通院を止めてしまう人も多いと思う。
特殊な例として、新規抗てんかん薬による精神への副作用を挙げたい。これはリエゾンの現場で時々診る悪化である。特に精神を悪化させる新規抗てんかん薬は、イーケプラ(レベチラセタム)、トピナ(トピラマート)、フィコンパ(ペランパネル)の3剤であるが、身体科ではトピナやフィコンパなどを処方されていることが滅多にない。
この中でイーケプラは身体科では多く処方されており、リエゾンでの悪化場面を時々診る。しかもその悪化に身体科の医師や看護師は気付いていないことが多い。イーケプラはイライラ、易刺激性、攻撃性、気分変動、抑うつ、不安などの悪化が診られ、高齢者ではアリセプト(ドネペジル)の精神症状の悪化の規模を大きくした印象である。
フィコンパは易刺激性、攻撃性、怒りっぽさなどの精神症状の悪化を来たすことがあり、イーケプラに似ている。過去ログで、抗てんかん薬の悪化はイライラ感を伴う躁状態のように見えると記載しているが、この2剤はそうである。
一方、トピナは上の2剤とは少し異なり、認知機能低下、思考の遅さ、抑うつなどがあるが、トピナは経験的には「うつ」にいくらか有効なことがある。認知機能の低下や思考の遅さは本人が自覚できることも多い。これはイーケプラやフィコンパとの相違だと思う。
トピナは時に幻覚妄想を惹起することがあり、元々精神症状がある人は注意を要する。トピナで幻覚妄想を惹起するような際、躁状態のようにも見える。また真の精神病ではないので、重篤に見える幻覚妄想でもトピナ中止後、消褪しやすい。
特に新規抗てんかん薬を処方後、人が変わったように見える時、副作用ではないか?と言う治療スタンスが必要だと思う。
抗てんかん薬では、ラミクタール(ラモトリギン)、バルプロ酸、カルバマゼピンは気分安定化薬として精神症状に処方されている。抗てんかん薬は良くも悪くも精神面に影響しやすい向精神薬と言える。
これら向精神薬による精神症状への副作用を診ていると、患者さん本人の洞察と言う点で、同じ副作用でも、イライラ感、不安感などと、内因性精神病的な精神症状の副作用(躁状態、幻覚妄想)は全く異なる。前者は本人が意識できるが、後者は全く病識が持てないのである。
つまり病識は疾患そのものに由来せず、精神症状の内容の方がむしろ関係が深いのだろう。