
少量処方の妙と周囲からどう見えるか?
ルーラン1mgの世界という2008年の古い記事がある。これはルーラン1mgが精神症状に効いているという内容で、短いので全文を記載する。↓
今、外来で何人かアスペルガー症候群の患者さんを診ているのだが、おおむね治療は順調である。この中ではルーランを1mg併用している人が2人いて、けっこう良いみたい。ルーランは強迫、こだわりの強い人には良い上に意欲を出す面があるので、そこが合っているのだと思う。
2人はルーラン以外にも抗精神病薬を併用しており単独の効果ではない。しかし1人は1mg追加して、もしかしたら何も関与していないのかも?と思ったので、中止したら元に戻ったようになったので、やはり病状に関係しているとしか言いようがなかった。
実はこの2名以外にも(他の疾患で)ルーラン1mgの人が何人かいて、この人たちもけっこう良いみたい。ルーランを1mg処方する場合、4mg錠を4つに割って処方している。ルーランは4mg錠が24円くらいなので、1mgでは6円ほど。新しいタイプの抗精神病薬で、このような安価な薬はそうそうないと思う。1ヶ月服用してもルーランに関しては180円しかかからないから。
最近、またルーラン1mgで面白い経験をした。その若い女性患者さんは書くとけっこう長くなるので、いつかエントリとして取り上げたいと思っている。今の処方は、
ルーラン 1mg
リスパダール 0.5mg
なのであるが、僕は、
ルーラン 2mg
リスパダール 0.25mg
がベストのような気がしている。治療の過程で、どうしてもリスパダールでしかまとまらないような気がしたので泣きたくなったが、ルーランも良いようなので、この処方で将来的にルーラン単剤という含みを持たせた形になった。現時点で、ルーラン単剤は怖すぎる。
この子は一時リスパダール1mgで治療していたのであるが、これだけで急速に陽性症状が消失してきた。しかしリスパダールだけだとひきこもりになり、外に出られない。ルーラン1mg、リスパダール0.5mgにしただけで、広場恐怖的な点が改善し、アルバイトに行けるようになったのである。
以上、転載終わり。
この向精神薬の微量投与だが、エビデンス的には「極めて低い」を通り過ぎて、エビデンスがないに等しいが、例えばリーマスの1mgなどは臨床医により試みられたりしている。ルーランは流石にマイナーな非定型抗精神病薬なので、同じことをする医師はほぼいないと思うが、リーマス1mgはそうでもないのである。
ルーラン1mgと同様なエビデンス皆無な微量処方として、
ドグマチールの微量投与
レキサルティの微量投与
ジプレキサの微量投与
リーマスの微量投与
ラミクタールの微量投与
リスパダールの微量投与
ロナセンの微量投与
などがある。他にもあるかもしれないが、これくらいを挙げる。
なお、このような微量投与の難点は他の医師が試みても再現性が乏しいこと。向精神薬の経験的なものが関係するし、かと言って何十年も精神科医をしていても出来ない人は出来ない。
28歳頃、ドグマチールの10mgくらいの微量投与を見たことがあった。ドグマチール(スルピリド)の最少の剤型は25mgなので10mgは細粒でないと処方できない。当時、その医師が何をしているかよく理解できなかったが、後になるほどと思うようになった。
本来、抗精神病薬はD2の遮断が十分にできる用量を考慮し、適切な用量の範囲が添付文書に記載されている。この視点だと微量投与はあり得ない処方で、効くわけがない用量である。
微量投与について精神科専門の薬剤師と話をすると、この定石的なことを背景に議論になるので、「この医師はわかっていないと言うか、向精神薬を勉強していないですね」と言う話になりやすい。
これがタイトルに挙げた「周囲からどう見えるか?」のひとつの光景だと思う。
リエゾンで病棟薬剤師と話をしていた時、僕は全ての薬剤師からリスペクトされていたので、あまり変に思われなかったが、彼女たちの質問には微量処方を試みる前提から話す必要は生じた。
上に挙げた非定型抗精神病薬の微量処方は、そもそもD2遮断目的で処方していない。上のルーランで言えば、D2以外のレセプターへの影響を考慮して処方している。以下の記載にそれが表現されている。
ルーランは強迫、こだわりの強い人には良い上に意欲を出す面があるので、そこが合っているのだと思う。
抗精神病薬をD2以外のレセプターを考慮して処方すると言うことは、幻覚妄想の治療を目的としていない。同じようにリーマスの微量投与は抗躁をターゲットにしていない。リチウムイオンが漠然と精神を安定させると言うものがあると思うが、それ以外の詳細不明な要素も関係している。
微量投与を行う場合、基本、他の薬がほとんどなくほぼ単剤であることが望ましい。もし一定量の抗精神病薬が既に投与されている時、更に微量投与しても、大海に塩を撒く結果になりやすい。
ただし、微量投与+微量投与はあり得なくはない。例えばレキサルティ微量+リーマス微量。
抜粋した記事でリスパダール+ルーランが挙げられているが、この2剤はレセプター的なターゲットがほぼ異なることで立体的な薬理作用が成立している。
微量投与の良い点は、副作用で困ることがほぼないこと。微量だとラミクタールでさえ中毒疹を避けやすい。
従って微量投与を試みるケースは、薬に極めて弱く副作用に敏感な発達障害系の人、(不登校などの)子供、あるいはリエゾンで診る極めて弱った高齢者などである。
余談だが、中井久夫先生は微量とはまた違うと思うが、かなり処方用量が少なかったと言われている。僕がまだ駆け出しの頃、これを聴いた時、少量処方が奏功するのは中井先生の精神療法が凄いからだろうと思っていたが、それもあるが、おそらくそれだけではないのである。
少量処方や微量処方が奏功するためには、オカルト的に言えば、オビ=ワン・ケノービの言うフォースのようなものも必要だと思う。