
精神保健指定医以外の通院精神療法の減算
2026年度の診療報酬改定で「精神保健指定医」に関する見直しが行われ、2026年6月1日から施行される。
今回の診療報酬改定で最も大きな事件は、精神保健指定医以外が通院・在宅精神療法を実施する場合、一定の施設基準を満たさないと報酬が実質4割減(所定点数の100分の60)となることであろう。
精神保健指定医ではない医師の減算は従来もあったが、「気持ち」くらいの差しかなかった。実際、計算してみると、例えばクリニックが経営破綻しかねないほどではなかったからである。
しかし今回は国も本気で、経営破綻しても構わないくらいの覚悟が伺われる。40%の減算は、それくらいのインパクトがある。過去ログで以下のような記載をしている。
抜粋。
12、おそらくだが、クリニック増加による外来患者を取られることや病床の稼働率の低下による危機感もあるのであろう。今から考えると厚生労働省の人も来ていたので、クリニック開業を少し規制してほしいという気持ちもあったように思う。
厚生労働省が今回の診療報酬改定では、精神保健指定医ではない医師のクリニックの経営が成り立ちにくくする意図が見られる。
精神保健指定医と言う国家資格は、本来、精神療法の技量とは関係がない。精神保健指定医は人権を制限できる資格なので、法律を十分に理解し実践できるかを合格基準にしている。
精神保健指定医は、レポートを書きやすい症例に早く巡り会わないとなかなか取得できないため、自然と臨床経験も要求される資格となっている。運が良いと3年ほどの臨床経験で取得できるが、症例に恵まれないなどで5年以上かかることもある。レポートで難しいのは、適切な症例に巡り会えたとしても、レポートとして書きにくい症例があることだと思う。
近年、この精神保健指定医を取得しないまま心療内科、精神科クリニックを開業する医師が現れ、国はこれを抑制する意図があったと思われる。
今回の診療報酬改定の通院精神療法減算で大きな影響が2つある。
1つは、クリニックの医師でかつて精神保健指定医を取得していたが、更新しないで資格を放棄した医師がいること。精神保健指定医はいわゆる公務員的な業務をするように義務付けられている。公務員的な業務とは措置鑑定などで、医療観察法の鑑定や審判などでも良い。
精神保健指定医でクリニックを開業している医師は外来診療で時間が取れないこともあり、措置鑑定に来る人がほとんどいなかった。実際、措置鑑定では2名の精神保健指定医により実施されるが、僕はクリニックの医師とペアで措置鑑定したことは一度もない。そう言う状況があり、措置鑑定に来てくれる精神保健指定医は常に不足気味だったこともあり、国は公務員的な業務を精神保健指定医に義務付けたのであろう。
措置鑑定はほとんどの場合、電話で急に言ってくるため、クリニックの医師が措置鑑定に携わるのはかなり難しい。数日前に日時が決まっていれば行きやすいが、そうでないことが遥かに多い。
これほどであれば、クリニック経営の医師は、精神保健指定医の更新をせず放棄した方が遥かに楽である。クリニックで日々、外来診療を続ける限り精神保健指定医と言う資格の必要性をほとんど感じないこともあるのでは?と思う。
今回は、そのように放棄した元精神保健指定医への国の思い切った措置だと思う。
クリニックの医師のまま精神保健指定医を再取得することは到底無理なので、今回の診療報酬改定は、痛恨の一撃だった。
ただしである。このような精神保健指定医を放棄した十分に技量を持つ精神科医のクリニックが閉院に追い込まれるのは、患者さん達への影響を考えるとかなり問題だと思う。
他、もう1つ別の大きな問題がある。通院精神療法は精神科医だけではなく、ASDや ADHDの患者さんを診療する小児科医も診療報酬に関わっている。
精神科医から児童思春期を診察するようになった人は大抵、精神保健指定医なので問題がないが、元々小児科医で、児童思春期を専門に診るようになった医師は、精神保健指定医の経歴は関係がない。小児科には児童思春期に対して特別な診療報酬はあるのだが、いわゆる通院精神療法の方が回数などの制約が緩いので、こちらの方が診療報酬として利用しやすいらしい。
このままのルールでは、小児科医の児童思春期の患者さんの継続的な診療に支障をきたすのではないかと思われる。
これらに対し、何らかの代替的な報酬を設けないと、あるいは移行期間を設けないと、混乱を来たす状況にある。
まもなく6月1日になるので、何らかのアナウンスがあるかもしれない。(あるいはもう出ているかも)
参考