精神科への転科についての話 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科への転科についての話

大学医学部は特定の科の医師を養成するプログラムになっていない。これは一般の人の一部が誤解していることの1つである。

 

昔、ある人から精神科のようなマイナーな科を選んだのは、希望者があまり多くないので、入学しやすかったからでは?と言われたことがある。いわゆる穴狙いをしたのでは?と言ったところだと思う。

 

確かに例えば工学部だと、さまざまな学科が分かれており、僕が入学した当時は、電気・電子系、建築系が人気が高く、倍率、入学最低点も高かった。一方、化学、造船などは人気がなく、入学最低点も低かった。

 

精神科を入学しやすいのでは?と言っていた人は、おそらく工学部のような専攻科による難易度の差をイメージしていたのだと思う。

 

しかし医学部はざっくりとしており、医師を養成する学部で専攻科まで分かれていない。なお、一定の年数、卒業僻地医療に従事することを条件に入学最低点が若干低くても入学できる制度はある。

 

入学後、同級生は意外に将来の専攻科を決めていない人が多いことに気づいた。漠然と医師になりたいという気持ちの人が多く、具体的に何科まで決めている人は多くはないのである。僕は高校時代から医学部に進学できたら精神科一択と思っていたので、むしろ少数派だった。

 

実際、新歓コンパで将来は精神科に行きたいなどと自己紹介したら、友人から「そう言うのはアテにならん」とか言われたものだ。

 

さて、卒業直前に色々な科から勧誘があり、ほとんどの学生はこの頃に専攻する科を決める。そして卒業後にその医局に入局する流れになる。僕の卒業当時と異なり、現在は卒後に研修医制度があり、一定の期間、ポリクリのように各科を回るようになっている。

 

これは理想を目指したのであろうが、国の大失策であり、卒業生と大学の各科の医局の繋がりを希薄にしてしまったのである。研修制度の際に、特に地方の国公立の医学部の卒業生は大都市の中核病院を希望することが多い。一旦、大都市で研修をしてしまうと、自分の卒業した大学に戻る人はむしろ少ないのである。

 

この研修制度が始まって以降、医局制度が崩壊し、ひいては僻地医療に従事する医師が激減する結果になった。これは、きっと国も予想もしていなかったことだと思う。過去ログには僕が2年目まで大学で研修し、3年目の異動先はいずれも田舎で、選択肢がほとんどなかったと記載している。

 

入局3年目、今風のコンビニがなく外食できる飲食店もろくにない僻地の病院に派遣されている。その病院には1年間しか勤めなかったが、高速道路で35分くらい行ったところに、大学時代の友人が住んでおり、良く一緒に飲みに行ったりで退屈さを紛らわすのに助かった。なお、僕がその病院から他県に異動直後にその友人はアメリカに留学したので、少しズレていたら悲惨だったと思う。彼とは今も付き合いがあり、年に2〜3回、会いに行っている。

 

ど田舎の精神科病院は国立病院だったとしても、慢性期の統合失調症の入院患者が多くを占めていて、新患も少なくさほど勉強にもならないのである。また、なお悪いことに、きちんと指導できる医師もいなかった。新患が来ないのは人口が数千人なので当たり前である。おそらく2000人以下。その町の首長選挙が2名の一騎打ちで、300票台で接戦になるくらいである。

 

その1年間で診た新患は記憶が曖昧だが1名か2名で、1名は典型的な緊張型の統合失調症の若い女性患者さんだった。また、教科書に記載通りの精神症状を呈していた。

 

今の制度でも昔と同様、精神科について良く理解して入局する人はさほど多くないと思う。よく理解している人は、親が単科精神科病院を経営しているケースであろう。親がクリニックを経営しているくらいだと、精神科とはいえ内科医院のようなものなので、そこまで実感がないような気がする。

 

さて、卒後に専攻科を決めて入局した後、専攻科を変更する人は滅多にいない。それは各科には専門医制度があることもあり、数年同じ科をすると専門医取得前だとしても、卒業直後に後戻りしにくくなるからである。精神科の場合、僕が入局当時はまだなかったが、精神保健指定医制度があるので他科とは少し異なる。

 

僕が卒業した当時はその辺りの制度がまだしっかりしていなかったこともあり、他の科を中途で辞めて精神科に入局する中途入局者が一定の割合でいた。

 

他の科を一定の年数やっていて、精神科に転科する人は主に3パターンに分かれる。1パターンは特殊なので実質2パターンと言っても良い。

 

1つは当時は現在の研修制度がなかったこともあり、身体的疾患が診られないことに不安を覚え、数年身体科を修めて精神科に転科するパターンである。これは本人が自覚してそうしていることもあるし、誰かに助言されてそうした人もいる。これは良さそうに見えるが、うちの医局では大凶とされていた。こういう順序を踏むと、真の精神科医らしい診断や治療のスキルが身に付かないと言われていたのである。

 

どの辺りに差が出るかは、このブログを見れば明らかだろう。

 

2番目のパターンは、いったん身体科に入局し、マイナー科も含めその科をやって行こうとしたが、壁にぶち当たり精神科に転科するパターンである。最初の数年が無駄になるが、時間が経てば大差ないと思うかもしれないが、このパターンは1で挙げた大凶の流れになっているので、結構な差がある。このようなキャリアで凄く治療が上手い精神科医を見たことがない。

 

どこが異なるかと言われても困るが、薬の効き方に既に違いが出ていると思う。薬が効かないと言うことは、必然的に多剤や大用量処方になるリスクを孕んでいると言える。

 

3番目のパターンは番外だが、入局後に、その医局ではやっていけないほどの精神疾患に罹患し精神科に転科するケースである。これはその医局の教授から詳細な紹介状付きの入局になる。治療を続けながら在籍すると言うモラトリアムのパターンである。

 

この精神疾患には統合失調症も含まれるが、ある程度、陽性症状が収束し、若干の欠陥症状が残遺しているレベルでないと医局の業務すら難しい。いわんや民間病院ではなおさらである。昔は僻地では標欠病院になっていることも少なからずあり、何も業務はできないが、医師数を揃えるために採用されることもあった。

 

統合失調症以外の精神疾患に罹患していて、そこそこ重いレベルの医局員は、仕方なく長く医局にいるしかなかった。就職できる精神科病院などなかったからである。当時、研究もせず医局に長くいるのは予後不良と言われていた所以である。

 

精神科に入局した時点で統合失調症が発病しておらず、その後、精神科をやっているうちに統合失調症を発病した事例を僕は見たことがない。精神科以外で統合失調症を発症して精神科に紹介状付きで転科するパターンしか見たことがないのである。

 

全国的には入局後発病のパターンもあると思うが、頻度的に滅多にないことは、統合失調症という疾患の本質を表しているようで興味深いと思っていた。

 

これは精神科医には変わり者が多いが、少なくとも、その変わり者ぶりは、次元的には統合失調症のラインにはいないことを暗示している。

 

一方、医師として他科に入局後、統合失調症を発病しその科を続けられなくなる人は、その辺りの病感〜病識に似た感覚がブラインドになっているからこそ、卒業時に精神科を選択していないように見える。

 

やはり統合失調症と呼ばれる内因性精神病は深遠であり、精神科医の興味を惹きつけるものがあると思う。