
スルピリドと薬剤性無月経
向精神薬のうち無月経を来しやすい薬として、昔はスルピリドが代表的薬物だった。その後、非定型抗精神病薬が発売されるようになり、リスペリドンも無月経を来しやすい薬として挙げられるようになった。他の抗精神病薬と比べ、リスペリドンがとりわけ無月経を来しやすい理由は上に挙げた記事に詳しい。
たいていの抗精神病薬は一定の用量を超えるとドパミン遮断作用が強くなるので無月経を生じやすくなるが、今の非定型抗精神病薬は昔に比べてレセプターへの作用が多様化していることもあり、無月経の副作用が以前より減少した印象がある。
なお、無月経は心理的な要因でも生じることがあるので、精神科に初診したばかりの人では、しばらく様子を診ないと薬剤性かどうか見極められないこともある。
かつてスルピリドと無月経の副作用がよく知られていたのは、スルピリドが今よりずっと汎用されていたこともあると思う。またスルピリドは通常量でも無月経や月経不順を起こしやすいこともあった。
スルピリドやリスペリドンと無月経の副作用を意識しない精神科医は、もぐりと言って良い。しかしリスペリドンは精神症状の安定化のため無月経を来したとしても処方せざるを得ない状況もあると思われるので、無月経が生じたために、100%リスペリドンを中止すべきとまで言えない。また、月経の周期で極めて病状が悪化する経過もあるので、しばらく月経が来ない方が良いという精神科医の判断もありうる。
リスペリドンは1.5㎎程度で無月経を来す人もいるので、リスペリドンしか合わないような人であれば、少量のエビリファイを併用することで無月経の副作用を避ける手法もある。以下はその詳細の記事である。
ある時、内科から紹介された女性患者さんにスルピリド200㎎程度が処方されていたことがあった。その患者さんによればスルピリドを処方したのは内科医のようであるが、胃薬としてではなく、何らかの抗うつ効果を期待して処方されたようであった。
スルピリドはSSRI、SNRI、トリンテリックスのように吐き気が来ないので処方しやすいと思うが、一定のレベル以上のうつ状態にはスルピリドは非力である。またスルピリドの薬理特性上、用量に対して線形に抗うつ効果は上昇しない。
つまりうつと呼べるかどうか微妙なほど僅かなうつに対し、スルピリドの処方価値があるともいえる。しかし内科医はうつの重さを精神科医ほど診断できない上、スルピリドと無月経の関係性をそこまで意識していない。また、本人に無月経を来しているのかを聴取していない医師もいる。
果たして、その若い女性患者さんは長期間無月経を放置されたままであった。これは無月経が続くことで、本人にとってPMS的な病状悪化が来ないなど、副作用に一定の利益?があったこともある。
精神科医は軽い病状の患者さんに対し、薬物治療のために無月経を容認するほど緩いことはしない。その理由は他の選択肢があるのに、無月経を放置することはないからである。
現代の精神医療では、若い人の軽い病態にスルピリドを安易に処方することは激減していると思うが、精神科以外では、スルピリドを少量使うことで、患者さんに喜ばれたりするため、今なお処方されているのを診ることがある。これは身体科の医師は、スルピリドはSSRIやトリンテリックスを処方するよりも遥かに怖さがないこともあると思う。
なお、スルピリドは長期ではなく、無月経、インポテンツ、肥満などを来さない用量でしばらく処方するのは全然ありだと思う。
特に適応障害などで、真のうつ病でもなく神経症レベルの病態には、スルピリド単剤か、スルピリド+ベンゾジアゼピンくらいでかなり改善することがある。適応障害は期間限定なのでなお条件が揃っている。
真の適応障害は環境が変わると、驚くほど改善し服薬も必要がなくなる。その点でもスルピリドは病態にフィットしている。
今回はスルピリドは、無月経の副作用があまり意識されず、精神科以外で長期に処方継続されているケースがあると言う記事である。