統合失調症の高齢者が骨折で数か月入院した際、ほぼ認知症にならない謎 | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症の高齢者が骨折で数か月入院した際、ほぼ認知症にならない謎

 

 

既に認知症が発症している人が骨折などで身体科に数か月入院すると、認知症が進行することが多い。認知症と骨折治療は非常に相性が悪く、ほとんどが認知症に対し促進的に働く。近年、新型コロナやインフルエンザの流行により面会制限があるため、一層、認知症が進行しやすい環境になっている。

 

ところが、高齢の統合失調症の患者さんは骨折や癌で入院しても認知症がほぼ発生しない。

 

これは統合失調症という病態を診る上で、非常に奥が深いと思っていた。

 

なお、統合失調症の人に100%認知症が合併しないわけではなく、ごく稀にアルツハイマー型の臨床症状を持つ認知症が合併することがある。

 

高齢の統合失調症の患者さんであたかも認知症のように見える人は、厳密には認知症でははなく、統合失調症による情意の減弱のことが多い。つまり重い陰性症状である。

 

そもそも若い統合失調症の患者さんが、重篤な身体的ダメージを負った際、そのダメージを負った期間に比例するが、しばらく病状が安定することが多い。人によれば2年くらい服薬が必要ないほど安定する。重要なことは、例え身体的ダメージを負ったとしても、そのために統合失調症が治癒することはなく、時間が経つと服薬が必要になることだと思う。

 

このようなことを考えると、統合失調症と認知症は全く異なる疾患だと言える。大昔、統合失調症のことを「早発性痴呆」と言っていたが、これは単に病態の例えみたいなものだ。

 

高齢の統合失調症の患者さんが骨折などで身体科に入院した際に、認知症に似た病状が進行することはないものの、ADLが低下することは重大だと思う。例えば、独歩できていた人が車椅子になるなどである。

 

また、高齢の統合失調症の人が骨折や癌などで身体科に入院した際、精神症状が比較的落ち着くことに加え、抗精神病薬に弱くなる。言い換えると、同じ用量を使っていてもEPSが目立つようになったりする。そのような病状変化から、その時期は抗精神病薬を減薬ないし中止できることも少なくない。

 

思い切って長年処方していた抗精神病薬を中止してみたら、全然大丈夫ということが起こる。

 

高齢の認知症の人が身体疾患で著しく認知症が進むことに比べ、同じ年代の統合失調症の人の精神症状の改善は驚くべきことである。

 

また、ほとんどの統合失調症の人の延長戦上には認知症は存在しないのであろう。

 

ある時、身体疾患で入院中の患者さんがあまりに入院が長くなっていたので、心配して見に行ったことがあった。抗精神病薬を中止したまま入院させていたので、もしかしたら精神症状が悪化しているのではないかと思ったからである。少なくとも、興奮や著しい迷惑行為などが生じていたら、主治医か病棟ナースから相談があると思うので、悪化しているとしてもそこまで大きな悪化はないと予測していた。

 

その結果だが、恐ろしい事態になっていたのである。

 

彼の顔つきはオオカミのようになっていた。あれは統合失調症の人が全く治療をしていない時の顔である。少し話をしてみると、会話はまとまらず支離滅裂だった。しかし、ベッド上で動けないので、そこまで病棟内で問題になっていないだけだったのである。

 

その患者さんは、3年前くらいはプロピタン150㎎とクエチアピン12.5㎎(ハロマンス25㎎/月)だけ服薬している程度でたいした用量ではなかった。身体科に入院直前は体力が低下していたので一時的に中止していた。退院も早いのではと思っていたこともある。

 

この経過を見ると、体力の低下と骨折や癌とでは、かなり身体的ダメージのレベルが異なることがわかる。

 

彼はやはり抗精神病薬が必要なのだろうと思った。そこで少し考えて、クエチアピン12.5㎎だけ処方したのである。身体科の病棟ではプロピタンは処方できない。またこの場面で、プロピタンやハロペリドールは重過ぎると思ったこともある。

 

果たして、2週間後にまた会いに行ったら、彼はニコニコしていたのであった。また話も通じるようになっており。クエチアピン12.5㎎は十分に抗精神病薬としての役割を果たしていると思った。

 

彼のその時の身体的状況ではクエチアピン12.5㎎は必要かつ十分な用量だったのである。

 

参考