木箱ECTのシングルとダブルの治療効果の差異 | kyupinの日記 気が向けば更新

木箱ECTのシングルとダブルの治療効果の差異

最近、非常に暑いためかうちの病院の入院患者数が激増している。過去ログでは暑い時期にうつ状態が悪化する理由として免疫が下がることを挙げている。

 

 

この考え方だが、免疫力の低下によりウイルスの活動が高まり脳の炎症が酷くなるという意味が含まれている。

 

ECTは脳の炎症的なシステムの乱れを抑えると言った効果があるように思われる(臨床的実感として)。

 

そこで1日のほぼ同じ時間に1度だけ5秒間実施することと、それを2回実施すること(ダブル)にはいかなる効果の差異があるか?が今回の記事のテーマである。

 

おそらく研修医頃、オーベンにシングルとダブルにいかなる差異があるのか質問したことがある。その時の答えだが、「1回だけだと直後にせん妄が生じて暴れることがあるが、2回連続で実施するとそれ起こりにくくなる」と言ったものである。これはある意味正しいが(経験的に)、もう少し違った意味で相違がある。

 

せん妄が起こるのを避けるメリットだが、ECTの直後にせん妄で暴れるような状況だと、周囲の者が怪我をするリスクが多少ある。なぜ「多少」という表現かというと、まとまった行動はできないため、ある程度避けられるからである。周囲の者は注意していれば大怪我はない。本人の怪我だが、周囲の者がある程度行動に制限を加えるので人が付いていればほぼ怪我はしない。

 

このせん妄は長く続きはしないので、しばらくすると次第にせん妄が収まり眠る人と、目を覚ましてすぐに食事をする人もいる。なぜ食事なのかと言うと、朝食を摂らせていないからである。

 

初回のECTの実施後、せん妄が毎回のように起こる人はせん妄が起こりかけた時点で2回目のECT(ダブル)を実施すればせん妄が避けられることが多い。しかし、せん妄を避けることはECTダブルの必要性と言う点で些細なものだと思われる。

 

一般にECTはうつ状態、カタトニアに有効であるが、特にカタトニアは代替の方法が少ないこともあり驚異的な効果と言えると思う。うつ状態に効くのは賦活作用だが、もしその患者さんが統合失調症の幻覚妄想状態を伴う緊張病性興奮のケースでは、これが悪い方向に行きやすい。

 

つまりECTをシングルだけ実施した日はかえって病状が悪化すると言う経過になりうる。

 

一時的とは言え、実施したために悪化するのは好ましくない。このような人は翌日か翌々日に2回目(シングル)を実施すると緊張病性興奮は次第に改善し、この2回目までか、もう1日3回目を実施すれば、概ね終了できることが多い。普通、統合失調症の緊張病性興奮に対する木箱ECTはシングルだと、2回か3回で終了できることが多い。つまりほとんどの人が1週間以内で終了できる。

 

それに対し初回からダブルでECTを実施すると、この賦活が起こらず、実施したことによる悪化が生じにくい。従って初日にダブルで実施することにより、1日で1クール終了できる人がいるのである。

 

ここがサイマトロン(mECT)との大きな相違だと思われる。つまり治療エネルギーは、木箱ECTの方が遥かに大きい。

 

かつてこれは全身性の痙攣が起こる起こらないの相違が大きいのではないかと思っていた(個人的に、また一般的な感覚として)。mECTは筋弛緩剤を使うためけいれんが起こらない。この差異については以下の過去ログに詳しい。

 

 

上の記事の中で、

 

僕は「木箱ECT」と「木箱ECT+麻酔」の両方をしたことがあるが、僕の答えは「木箱ECT+麻酔でもあんがい効果がある」これが結論である。少し効果が下がるが実用に困るほどの大きな差がないと思った。

 

と記載している。麻酔をするかしないか(筋弛緩剤の有無)ではなく、木箱ECT(交流)とサイマトロン(パルス)の効果に相違があるのである。

 

シングル、ダブルの相違はその延長上にある。

 

ダブルは早く症状を改善したい時に選択される。一方、うつ状態のように主に賦活を期待する時は、初回からシングルの方が良いと思う。賦活が良くないエネルギーにならないからである。

 

基本的にはECTは脳の炎症を抑える方向に働く。経過中、賦活が起ころうが次第に悪化した精神症状が改善する方に向かうのである。