ジプレキサと体重減少 | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサと体重減少

旧来の薬でずっと安定している統合失調症の患者さんを外来治療していた。旧来でも副作用がさほど出ておらず安定している外来患者さんは、積極的に非定型抗精神病薬に変更すべきではない。これは過去ログでも触れている。僕はこの患者さんは女性なので、いずれは変更すべき時期が来るような気がしていた。

昭和44年頃の処方
プロピタン 100mg
コントミン 100mg
アキネトン  3mg


その後コントミン300mgまで増量され、レボトミンを20mg併用されていた。初回、昭和45年に入院以後、入退院歴が数回ある。最後の入院は平成7年で、この際にセレネース系の薬物に処方変更されており以後、長く安定していた。

平成7年頃の処方
セレネース  15mg
ヒベルナ   75mg
アキネトン  6㎎
レボトミン  25mg
(他、胃薬がある。眠剤はなし)


僕が受け持ったのは平成12年頃なのでもう付き合いが長い。やがて診察時に口ジスキネジアが目立つようになったことと、セレネース15㎎はこの人には多いような気がしたので、本人を説得して減量することにしたのである。薬物の減量や変更には、本人には不安や強い拒絶もあり、そのようなことも変更を遅らせていた面があった。

セレネースを減量しやがて9mgほどになったが、特に大きな変化(悪化)は見られなかった。その際にアキネトンを3mgまで減量し、グラマリール、リボトリールを増量している。

その後、思い切ってエビリファイを追加することにした。なぜエビリファイなのかと言うと、肥満体型なので非定型抗精神病薬のうち使うとしたら、積極的に体重減少も望めるエビリファイが良さそうに思ったからである。ちょっと不安だったのは、彼女は非常に色が白い人で、僕の合う、合わないのオカルト的な基準では失敗してもおかしくはないことであった。(参考

本人はエビリファイを追加以後、体調がとてもよくなったというので、次第に増量し、変更開始後4ヶ月目には以下の処方になった。当時、既にジスキネジアは消失していたので副作用の問題はクリアしていると言えた。

セレネース   6mg
エビリファイ  6mg
グラマリール  25mg
リボトリール  1mg
アキネトン   2mg
レボトミン   25mg
(他、胃薬)


ヒベルナ、アキネトンを減量できたのはエビリファイのおかげである。当時、口渇が減少し、足のピクピク感(セレネースによる不随意運動)が消失し体がかなり軽いと本人も非常に喜んでいた。更に変更9ヶ月目には

エビリファイ 12mg
リボトリール 1mg
セレネース  3mg
レボトミン  25mg
(他、胃薬)


とかなりシンプルになったが、この頃から、彼女の体調がおかしくなりはじめた。ずっと体調が良かったのに、変更後もう1年近くなって破綻するところが、エビリファイのエビリファイたる所以であった。僕は、エビリファイの増量を自重し6㎎までに留めセレネースメインにしておれば、このような事態は避けられたかもしれないと思った。まさに策に溺れたといえた。

彼女は次第に困惑、亜昏迷模様になり、朝すぐに起きられない、倦怠感、下痢などの不定愁訴がみられるようになった。当時はまだ夜は眠れていたという。変更11ヶ月目にははっきり病状が悪化し、躁状態を呈するようになった。また、妄想気分が出現し「自分が薬を飲むと町の人が事故に遭い死ぬので飲まない」という。全く服薬しなくなり次第に食事も摂らなくなった。母親によると、最小限の水分しかとらないが、不思議なことに、仕事の電話番はできるし計算も間違わないという。

薬は飲まない、食事は摂らない、通院もしないの3点セットで、いずれはなんとかしないといけない状況に至った。少し待っていたのは、ひょっとしたらひょっこり通院してその際に入院させることができるかもしれないと思ったことがある。遂に、母親に依頼され往診し収容することにした。近年、患者さんの家まで出向いて収容することは非常に珍しいと言えた。

元はと言えば、自分が撒いた種なのでやむを得ない。

病院職員と一緒に彼女の家を訪問した。彼女は著しく興奮し周囲の家族や主治医への暴言などが見られ逃げ回った。彼女は緊張病症候群に至っていたのである。

現場でなんとか押さえてトロペロン2Aを筋注した。昔はイソミタールのアンプルがあったので、こういう時は便利だったが、今はそのような薬物はないので仕方なくトロペロンを筋注したのである。トロペロンの筋注は即効性はともかく、それほど鎮静的ではない。女性だからこの程度の対応でなんとかなるかもしれないと思うが、もし男性だったら相当に難しかったと思う。

車に収容後、すぐに出発。彼女はしばらく泣いていたが、その後は注射のせいもありやや落ち着き、わりあい話ができるようになった。「私が入院すると地球が大変なことになりますよ」と言い、地球温暖化や全世界的なテロの話をずっとしていた。

自分が入院すると、北極クマたちが死んでしまうと車の中でオイオイと泣き始めた。これは「世界没落体験」と思われる。現代社会の世界没落体験は、北極クマの心配もするのか・・と妙な感慨があった。

彼女はNHKのプラネットアースを観ていたに違いない。

彼女は13年ぶりの入院であった。この10年以上はわりあい落ち着いていたのである。入院日から、トロペロン2A、アキネトン1Aの連日の筋注。および内服には

トロペロン  9㎎
アキネトン  2㎎
アムロジン  2.5㎎
レンドルミン 0.25㎎


を処方している。保護室を開放的に使うことにした。病院には慣れており今さら暴れるようには見えなかったし、希死念慮も今回はみられないので隔離は行わなかったのである。どうも収容の際にトロペロン2A筋注したのが、良かったとしか思えないほど、その日の夕方には表情の硬さが減少しており、わりあい話ができるようになっていた。

入院翌日
ここが気に入ったのでここにずっといたいという。ただ、食事は摂らない。「米は3分の3拍子揃っているからダメです」という。妄想は続いているように見えるが、詳しくは聞かなかった。彼女は肥満体型であるが、思い切ってジプレキサを試みる。(上乗せ)

入院4日目
ジプレキサザイディスは有効のようで、まもなく食事を普通に摂る様になった。トロペロンは漸減。トロペロン2A、アキネトン1Aの混筋注も7日目までで終了の予定。

この時期の内服薬
ジプレキサザイディス 10㎎
トロペロン     6㎎
アキネトン     1㎎
アムロジン     2.5㎎
レンドルミン    0.25㎎


入院4日目
保護室内で体操をしているという。昔よりは良いですねと言う。家の人に電話をかけ時計を持ってきてほしいという。地球環境の心配について聴くと「普通ですね」という言い方。良く笑う。(アムロジンは通院していた内科で処方されており継続処方)

11日目
保護室から一般病室に移す。落ち着いてはいるが、いつもテンションが高い。突然、家に○○饅頭を持っていくというなど、いまひとつ会話がかみ合わないこともある。

13日目
入院後急速に改善している。食事、睡眠も問題ない。本人にはジプレキサザイディスのみで他の薬は次第に減らしていくように伝える。

16日目
とても調子が良くなったという。ジプレキサ、トロペロン、アキネトン組み合わせではジスキネジアは消失している。

21日目
右足と腰から膝にかけて痛いという。良くなってくると、そういう神経痛が出るからと伝える。気分的には家の頃よりずっと良くなっているという。便通は頓服でプルゼニドを貰ったら良くなりました。

ジプレキサザイディス 10㎎
トロペロン     3㎎
アキネトン     1㎎
アムロジン     2.5㎎
レンドルミン    0.25㎎


25日目
母が来院。良くなっているのにびっくりされる。足の痛みは出たり出なかったりです。

27日目
トロペロン、アキネトン中止。表情は明るい。テンションが以前ほど高くなく、病棟でも目立たなくなっている。今日は朝から足が痛くないという。体調は今はずっと良いらしい。3ヶ月以内には退院できそうである。

ジプレキサザイディス 10㎎
アムロジン     2.5㎎
レンドルミン    0.25㎎


34日目
今は病棟を歩くようにしています。ダイエットです。入院後体重が11kg減りましたと言う。足はほとんど痛みはないですね。大声で話すが、以前ほどの大きさではない。

43日目
最近は1週間に1kgのペースで体重が減少しているらしい。体重の減少につれて、血圧も落ち着いてきている。今の薬は飲みやすいと言う。

50日目
最近は体重が減ってきている、なんででしょうねぇ・・と笑う。

57日目
以前よりやさしい顔つきになっている。今月いっぱいで退院しましょうかと伝える。最近は減量したので指輪がスポスポです。彼女は指は最後に減るんですよねという(本当か?)

65日目
彼女に貴方の飲んでいる薬は油断すると体重が増えることを説明し、退院後の食生活に気をつけるように伝えた。服薬指導する。なぜか、彼女は色がずいぶん白くなっている。

79日目に軽快退院。

退院時の処方
ジプレキサザイディス 10㎎
アムロジン     2.5㎎
レンドルミン    0.25㎎


退院後、1ヶ月目
今はとても調子が良い。楽しく仕事をしています。麦茶を飲んでいる。ひもじくはない。体重は退院時と変わりがないです。今は仕事は忙しくないですね。目つきが良くなっている。(家族からも言われたらしい)

彼女は例えば5年前より、あらゆる点でずっと良くなっていた。それは話す際の声の穏やかさ、表情の動き、他人への配慮などである。つまり、彼女は以前よりずっと淑女になったのであった。

解説
精神疾患の体重の増減であるが、結局はその人に合っているかどうかが非常に大きいような気がしている。つまり、ジプレキサとは言え、爆発的に体重増加する人は(20kg以上)真に合っているとはいえない。

今回の患者さんの場合、入院以前はたいして食事を摂っていなかったのにもかかわらず、入院後ジプレキサザイディスに変更以後、きちんと食事を摂り始めたのに急激といえるペースで体重減少している。この患者さんに関しては入院前に体重増加しやすい薬を飲んでいたわけではないし、また食事もろくに摂っていなかったのが興味深い。ジプレキサのために食事を摂れるようになった後に体重減少しているのが逆説的で面白いと思う。

ジプレキサでは、このような爆発的な体重減少は時々見るが、リスパダールにはそれがない。これは統合失調症の人では真にリスパダールが合う人が存在しないのではないか?ということを暗示している。(参考

つまり向精神薬の体重への影響は、

① 薬固有の絶対的な体重増加率。
② その人へ真にフィットしているかどうか。


の2つのパラメータで決まると思われる。(もちろん、過食嘔吐がある場合や著しい拒食がある場合はその限りではない)

真にフィットしているかどうかだが、ジプレキサやトリプタノールのように体重増加する確率が潜在的に高い薬物より、もう少し曖昧なアモキサンやパキシルなどの薬物でその個人差がより明瞭になると思われる。