リタリンのゆくえ | kyupinの日記 気が向けば更新

リタリンのゆくえ

リタリンは1月からたいていの精神科病院、クリニックでは処方できなくなる。僕は数ヶ月前まではもう少し規制が緩く、どこか抜け道があるような漠然とした楽観があったのだが、実際はそうもいかないようなのである。

ここでは資料が手元にないので細かい内容が書けないが、特定の学会に所属し、しかもナルコレプシーなどのある程度の治療経験があるなど(その他多数の項目がある)、かなりの条件をクリアし登録しないと病院はリタリンを購入すらできなくなる。今までに睡眠障害専門の病院に勤めていたとか、特別なキャリアがないとリタリンを扱えないことになった。ナルコレプシーは初診では精神科でそうそう診ない稀な疾患だからだ。リタリンは2008年の1月~3月までくらいはまだ在庫があるかもしれないが、それ以降は特定の病院しかリタリンをストックしていないことになる。

もちろん、1月以降は適応がナルコレプシー以外は除外されるので、難治性うつ病の保険病名では保険請求できない。今、うちの病院でリタリンがどのくらい残っているかというと、160錠くらい。使っている患者さんはいつかも書いたが、3人だけであるが、そのうち外来患者さん2名のうち1名は実質すでに中止していて、1名だけ0.5錠だけ今も処方している。これもやがて中止する予定だ。

問題は1名の入院患者。この老齢の女性患者さんは、本来、双極性障害だったのであるが、頭頚部にある癌が生じたために放射線治療を受け、その被曝のためか精神症状に紛れが生じた。器質性の障害が加わったのである。この人は一時、幻視や認知症症状を認め、あたかもレビー小体型認知症のような病態を呈していたが、病歴からして非定型精神病ないし器質性精神病の要素が大きい。この人は試行錯誤の末、リーマス、リタリン、チラージンSの組み合わせで何とか病棟適応レベルまでに回復した。

リーマスという薬は不思議な薬で、非定型精神病の一部でかなりの有効性を見せることがあるのに、他の同じ疾患の人にはむしろ悪化させているような感じになったりする。リーマスは、老齢の患者さんにはあんがい錐体外路症状が出ると思う。この錐体外路症状の増加が老齢期の非定型精神病の人々にはマイナスになっている。悪性症候群の原因薬物としてリーマスはなぜか上位に入っているのを見てもわかる。

リタリンはこの患者さんに限れば、昏迷~亜昏迷をかなり減少させていたので有効例と言えた。リタリンを飲むと動けるようになるし、食事も自分で摂れるのである。この患者さんは最近まで1.5錠処方していたが、今は半錠しか処方していない。中止後はひと波乱あるような気がしている。

うちの病院では3人しか処方していなかったので、中止の影響はこの程度で済むが、うちの県内ではなんとリタリンの服用者が1000人以上いたのだという。

誰がそんなに処方していたんだ、と言ったところ(笑)

この数にはかなり驚きだった。ただ、リタリンを服用してもう長い人たちに急に止めろというのも医療的にはいかがなものかと思う。特に猶予期間というか移行期間がほとんどなかったのはちょっと配慮がない。

これは仮定の話であるが、もしある患者さんが難治性うつ病のためにリタリンで治療していたとしよう。中止を強制されて自殺した場合、誰の責任が大きいか考えてみると、今回の処置の問題点が見えてくる。

その人が「リタリンを飲んでいたのが悪い」というのは言うのは簡単だが、本来、その人が希望してリタリンを服用した確率はわりあい低いと思われる。たいていの場合、精神科医が判断して処方しているからだ。その精神科医が安易にリタリンを処方していたという責任はいくらかはある。もしその医師があまりに多数のうつ病患者にリタリンを乱発して処方していた場合はなおさら。できるだけリタリンを処方しない治療を心がけるのは、誰にも強制はされないけど常識的なことだからだ。

いろいろ問題があったにせよ、それまでリタリンは効能・効果として「難治性のうつ病」に投与を許可されていたことがある。うつ病に特別にエビリファイを処方していたのとはわけが違う。そのようなことを考慮すると、今回の処置にはいくらかの猶予的な移行期間がもう少しあっても良かった。特に、リタリンは「難治性のうつ状態」に処方されていることが多かったからだ。