殺人の過去がある人
大学を卒業し精神科の医局に入ったばかりの新入医局員は、外来では新患も再来も診察するようなことはなく、少数の入院患者を受け持つだけだった。ただ、その入院患者さんが退院した場合は、外来で診察することもあった。外来で新人は何をしているかというと、教授や助教授の診察の陪席や雑用である。
ここでいう雑用とは、患者さんにセレネースやアナフラニールなどを点滴するようなことである。あとは処方箋のカキコ。これは一応どんな薬が良く使われているかわかるので、少しはためになる。陪席は新患に限られていた。これは勉強にはなるが、あまりに新米だと何がなんだかわからないのが実情であった。
ところが、アルバイト先ではいきなり外来を診察していた。よくわからない場合は、その病院の院長か他の先生に聞いていたが、今考えると、あれほど何もわからないのに、よくそんなことをやっていたと思う。また、周囲の人もさせていたと思う。卒業後、5月末に入局して6月には外来を診ていたのである。
患者さんは統合失調症と双極性障害うつ病が主だし、再診患者の場合、同じ薬をそのまま出しておけば良いのであまりストレスにはならなかった。むしろ、病棟を診ていて突然起こる身体疾患の方がストレスだった(イレウス、消化管出血など)。1年目の夏頃にはアルバイトで精神病院に行った日は、しばしば医師が僕以外には誰もいないようになった。200床以上もあるけっこう大きな病院なのである。
僕はオーベン(指導医)に言った。「行った日は僕以外誰もいないようになりました。」
オーベンによれば、僕が「1人でやっていても無茶なことはしない」と思われているんだろう、と誉めているのかなんだかわからないような返事だった。そういうわけで再診も新患もすべて診るようになった。当時、これは困ったというのがなかったような気がするので、あまり難しい患者は来なかったのだと思う。
なぜかわからないけど、最初の頃から、統合失調症だけはすぐにわかった。当時、あの患者さんは今考えると統合失調症じゃなかったな、というのが全然ないからだ。このアルバイト期間中、特に大きな事件は起こらなかった。一度だけ、あるうつ状態の患者さんが実はクッシング症候群による症状精神病によるものであることを発見して誉められたくらい。
ある時、まだ行き始めたばかりの頃だが、かつて殺人事件を起こしたことがある通院中の男性を診るようなことがあった。カルテを診て驚いたが、本人は普通のおじいさんであった。あまりにも僕が驚くので、上の先生が「精神科医はそのくらいで驚いてはならない」と教えられた。
精神病院では、入院患者か外来患者で少なくとも1人くらいは殺人事件の過去がある人がいるものだ。僕は今までに、こういう人が全くいなかった病院に勤めた経験がないから。
うちの病院では、殺人まで犯した人は1名だけであるが、今はすっかり寛解している。最初にこの病院に来た当時、この男性患者はほとんど薬を服用していないことが判明した。なぜならリチウムの血中濃度が低く、飲んでいないのとたいしてかわらなかったからである。
今更、そういう事件も起こさないと思うが、悪くなると手がつけられなくなる可能性もあるので、毎月、ネオペリドールを200mg筋注することにした。ネオペリドール(ハロマンス)とはハロペリドールの持続性抗精神病薬である。1回筋注すると25日~30日くらいは効果が保てるので、内服量を減らすことができる。またハロペリドールなので、血中濃度も測定可能だ。
日本では持続性抗精神病薬はネオペリドールのほかにフルデカシンという薬がある。フルデカシンとネオペリドールをダブルで混合して注射する方法もあるが、うちの病院では今はダブルで注射しているような人はいない。
この2つは同じように見えるが、ネオペリドールの方が硬結しやすく、注射痕が痛い。その点、フルデカシンは麻酔作用のようなものがあるので注射痕が痛くないらしい。そういうわけで、混ぜて筋注するとネオペリドールの痛みが軽減するのである。
この殺人の経験のある患者さんは、このネオペリドール200mgでけっこう元気だ。もう僕が診始めて7年以上は安定している。この週は悪かったというのがないので、このまま問題が起こらない可能性の方がかなり高い。こういう人ではネオペリドールって便利だなと思う。
もう少ししたらリスパダールの持続性抗精神病薬のアンプルが発売されると思う。これは大歓迎である。このメリットに同じ用量の内服より副作用が少ないことがある。
ここでいう雑用とは、患者さんにセレネースやアナフラニールなどを点滴するようなことである。あとは処方箋のカキコ。これは一応どんな薬が良く使われているかわかるので、少しはためになる。陪席は新患に限られていた。これは勉強にはなるが、あまりに新米だと何がなんだかわからないのが実情であった。
ところが、アルバイト先ではいきなり外来を診察していた。よくわからない場合は、その病院の院長か他の先生に聞いていたが、今考えると、あれほど何もわからないのに、よくそんなことをやっていたと思う。また、周囲の人もさせていたと思う。卒業後、5月末に入局して6月には外来を診ていたのである。
患者さんは統合失調症と双極性障害うつ病が主だし、再診患者の場合、同じ薬をそのまま出しておけば良いのであまりストレスにはならなかった。むしろ、病棟を診ていて突然起こる身体疾患の方がストレスだった(イレウス、消化管出血など)。1年目の夏頃にはアルバイトで精神病院に行った日は、しばしば医師が僕以外には誰もいないようになった。200床以上もあるけっこう大きな病院なのである。
僕はオーベン(指導医)に言った。「行った日は僕以外誰もいないようになりました。」
オーベンによれば、僕が「1人でやっていても無茶なことはしない」と思われているんだろう、と誉めているのかなんだかわからないような返事だった。そういうわけで再診も新患もすべて診るようになった。当時、これは困ったというのがなかったような気がするので、あまり難しい患者は来なかったのだと思う。
なぜかわからないけど、最初の頃から、統合失調症だけはすぐにわかった。当時、あの患者さんは今考えると統合失調症じゃなかったな、というのが全然ないからだ。このアルバイト期間中、特に大きな事件は起こらなかった。一度だけ、あるうつ状態の患者さんが実はクッシング症候群による症状精神病によるものであることを発見して誉められたくらい。
ある時、まだ行き始めたばかりの頃だが、かつて殺人事件を起こしたことがある通院中の男性を診るようなことがあった。カルテを診て驚いたが、本人は普通のおじいさんであった。あまりにも僕が驚くので、上の先生が「精神科医はそのくらいで驚いてはならない」と教えられた。
精神病院では、入院患者か外来患者で少なくとも1人くらいは殺人事件の過去がある人がいるものだ。僕は今までに、こういう人が全くいなかった病院に勤めた経験がないから。
うちの病院では、殺人まで犯した人は1名だけであるが、今はすっかり寛解している。最初にこの病院に来た当時、この男性患者はほとんど薬を服用していないことが判明した。なぜならリチウムの血中濃度が低く、飲んでいないのとたいしてかわらなかったからである。
今更、そういう事件も起こさないと思うが、悪くなると手がつけられなくなる可能性もあるので、毎月、ネオペリドールを200mg筋注することにした。ネオペリドール(ハロマンス)とはハロペリドールの持続性抗精神病薬である。1回筋注すると25日~30日くらいは効果が保てるので、内服量を減らすことができる。またハロペリドールなので、血中濃度も測定可能だ。
日本では持続性抗精神病薬はネオペリドールのほかにフルデカシンという薬がある。フルデカシンとネオペリドールをダブルで混合して注射する方法もあるが、うちの病院では今はダブルで注射しているような人はいない。
この2つは同じように見えるが、ネオペリドールの方が硬結しやすく、注射痕が痛い。その点、フルデカシンは麻酔作用のようなものがあるので注射痕が痛くないらしい。そういうわけで、混ぜて筋注するとネオペリドールの痛みが軽減するのである。
この殺人の経験のある患者さんは、このネオペリドール200mgでけっこう元気だ。もう僕が診始めて7年以上は安定している。この週は悪かったというのがないので、このまま問題が起こらない可能性の方がかなり高い。こういう人ではネオペリドールって便利だなと思う。
もう少ししたらリスパダールの持続性抗精神病薬のアンプルが発売されると思う。これは大歓迎である。このメリットに同じ用量の内服より副作用が少ないことがある。