2人目の女性患者
うちの病院の外来患者さんで、同じような年頃の20代前半の女性患者さんが3人いる。全員とても綺麗な人たちなのである。3人とも、一時は幻覚妄想が酷く入院歴がある。(特に3人目の子は計3回、のべ1年の入院歴)
1名はルーランとセロクエルの併用。1人はエビリファイとセロクエルの併用。1名がエビリファイとプロピタンの併用であり、誰1人として単剤治療ではない。量はかなり少ないけど。(エビリファイは6mg以下、セロクエルは150mg以下)今は、全員幻覚妄想はみられない。
3人のうち、前者2人は明らかにプレコックス感が残っている。3人目は全然それがないので、たぶん、3人目の子は統合失調症ではないのだろうと思う。僕が、外来担当の看護師さんたちにそのことを話したら、誰にもその見分けがつかないのだそうだ。「え?、先生はわかりますか?」といった具合。「誰も気がつかないなら心配しなくてもいいね。でも僕は非常に気になる」
これは、3人の女性患者の概略で、「プレコックス感はなくなるのか?」から再掲している。
今回は、この2人目の女性患者について。
2人目の女性患者さんは、1人目と3人目と少し治療のいきさつが異なる。1人目と3人目の患者さんはほぼ初診時から治療を始めたのに比べ、この患者さんは、初診時に既に発病後5年は経過していた。まだ本当に若いのだが。
最初は知り合いのクリニックから、病状が悪いので入院させてほしいといった感じだったように思う。初診時は軽度の困惑、亜昏迷状態で、油断すると何をするかわからないような感じだった。ちょっと人格障害っぽい症状もあって、表面的な主訴も不安、恐怖感くらいなのだが、一見して、診断は統合失調症で間違いなかった。
その日はできれば入院させたかったが入院ベッドがなく、しかも家族、特に母親も入院はさせたくない気持ちが強いようであった。その日、入院ベッドが空いていたとしても入院は難しかったかもしれない。しかし、病状的には油断がならないのである。実際、裸足で外に出て行ったり、外で遊んでいた子供に何かしようとしたため、その子供の母親が心配して警察に連絡して保護されかかったこともある。何かあってからはもう遅い。
母親は、「典型的な患者さんの母親タイプ」で、何をしてよいかわからず、オロオロと泣き出す始末。治療させたい気持ちと、自分のところへ子供をおいておきたい気持ちが錯綜しており、何も決断できない状況だった。
この患者さんは発病以降、しっかりと治療している期間があまりなかった。入院歴がなくクリニックでの治療だけだった。僕は時々思うが、クリニックだと、入院治療が良いかどうか微妙なケースで紹介するのはややしずらいのもあり、結局外来治療で経過観察してしまうことが多くなってしまうような気がしている。こういうのは、あまり予後は良くない。人格障害ならば、薬を使わないでもそうは変わらないといえるかもしれないけど、統合失調症ならやはり薬物療法を行わないと。
まず薬物療法を始めて、結果的にどの薬もあわなくて、デパスだけで様子をみているのと、最初からそういう試みをせず、いい加減に睡眠薬とかワイパックスくらいで経過観察しているのでは全然意味が違う。そういう風な経過になったのは、前医が努力していないというより、家族がよくわかっていないことが大きかった。しかも不思議なことに告知も受けているようなのである。本人が「私は統合失調症だから」などと言っていたから。
うまいぐあいに家族全員の疾患に対する否認が生じていた結果である。こういうのを見ても、告知が必ずしも治療のモチベーションをあげないのがよくわかる。また、統合失調症などといわれると、こういう一見、神経症~人格障害っぽくみえる患者の家族はかえって診断に疑いを持つこともある。
それと、僕はこのような若い人に「自分は統合失調症だから」とか言ってほしくない。この気持ちは、精神科医でないとなかなかわかってもらえないと思うが。
結局、その日、今までしっかり治療をしてこなかったことに関して、家族を叱責した。というのは、危うく措置入院で入院させられていた可能性もあったからである。
でも、これは性格的なものなんだけど、僕は強く激しい感じでは人を叱れないのだ。その日はセレネースを注射して帰宅してもらった。母親が24時間自分が見ておくと言ったこともある。翌日に来てもらいまたセレネースを注射した。その日、どうしても入院して治療しないと難しいように感じたので、友人の病院に紹介状を書いた。しかし、その病院を見学してきただけで、再びうちの病院に戻ってきた。雰囲気が嫌なんだと。それは本人だけでなく、母親も同じことを言っていた。うちの病院なら入院しても良いと言い、ベッドが空くまで待つという。
薬物療法はセロクエルを選択した。こういう人格障害(それも多重人格、解離を伴うケース)はセロクエルは悪くはないように見える。しかし女性なので、これだけで治療するのはちょっと長期的には肥満が気になる。この患者さんの場合、セレネースを短い期間静注ないし筋注することはほとんど問題がなかった。このよう状態では高力価の薬物も体が受け止めてくれるし、その副作用のために後の経過に重大な影響を及ぼすことも滅多にない。
ちょっと驚いたのは、セロクエルで眠さの副作用がわりあい出ること。200mg服用すると、眠さのあまりほとんど活動できないような感じなのだ。しかし、ほかの副作用がほとんどないし、勝手に家を出て行ってしまうことがなくなったので、僕はある程度セロクエルの効果に満足した。まあ長期は無理とは思ったけどね。
結局、そのような感じで外来で治療しているうちにベッドが空いた。家族と話し合って入院はさせたものの、すぐに本人が帰りたいと言って聞かないし、そういう電話を母親に何度もするような感じなので本当に短期間で退院させた。そんな風にしてまで入院させておく価値がないと思ったのと、初診時に比べ落ち着きつつあったのが主な理由だ。母親も、娘がそんな感じだと情緒不安定になり泣き出すような状態だったのもある。こういう場合は、子供と母親を1セットで見ないといけない。
実は、1人目の女性患者さんと年齢がほとんど変わらないのである。この子のほうがずいぶんと子供っぽい。まあ性格もあるのだろうが、思春期に既に発病しているのが大きな違いだと感じた。
彼女の母親も父親も、なぜかわりあい僕を信頼してくれたのであった。母親は、いつもオロオロしているような感じだったが、父親は優しい人であった。彼女も、あのような両親だと幸せだと思うよ。そのうち、外来だけど思い切ってエビリファイを処方すべきと思うようになった。理由は、セロクエルでは眠さが解消せず、このままでは引きこもり状態が続くだけと思ったのがある。
エビリファイは少量の1.5mgから処方した。エビリファイはすぐに彼女の表情を明るくさせ、一見、眠さをこちらに感じさせないような感じになった。そうしてセロクエルを減量したのである。最初にセロクエルを増量しただけで、他覚的には異常体験や行動異常のような症状がなくなった。しかし見た目にぱっとしなかったのが、エビリファイを追加した理由であった。最初、エビリファイを追加した時、本人に感想を聞いてみた。
「不安感が減った。胸がすっきりした」
などと言っていたので、エビリファイはセロクエルより陽性症状に効果的だったのがわかる。こういう恐怖~不安感は本人は詳しく語らないけど、陽性症状的な所見なんだと思う。
エビリファイを3mgにするか6mgまで増やすか相当に迷った。結局、単剤治療に含みを持たせるため6mgまで増やすことにした。セロクエルは最高250mgくらいまで増やしたが、徐々に減量し80mgくらいまで減量。
エビリファイ 6mg
セロクエル 80mg
こんな感じの処方で様子をみていたのである。最初は毎日来てもらっていたが、短い入院以後は1週間ごとに通院してもらった。家庭療養では母親が仕事にいけるほどに独りで置いておいても心配ないくらいに回復していた。
日中に何をしているか聞くと、テレビを観ているか、本を読んでいるか、寝ているのである。これは精神科医からするとあまり喜べない。しかしあれほどの陽性症状があった経過を考慮すると、このように無気力・不活発の状態が数ヶ月続いてもおかしくない。治癒(寛解)に向かっていると考えることもできる。
僕は、もう細かいことを考えずに、セロクエルを40mgくらいまで減量し放置した。そうして2週間ごとに通院してもらうようにしたのである。1週間ごとだとあまりにも変化がないので、こちらが焦るのもある。まあ、これは気持ちの問題だ。
エビリファイ 6mg
セロクエル 40mg
この処方で、抗不安薬も眠剤も必要なかった。当時、僕はこういう風にしばらく療養していると次第に元気になってくるのではないかと思っていた。少なくとも、旧来の薬ならこの状態ならそういう展開になりやすいのがある。しかし今回の場合、エビリファイなのである。
エビリファイは彼女に限らずたくさんの患者さんに処方していたので、たまに、このようなエネルギーを喪失した無気力状態に至る人がいることがだんだんわかってきていた。そういうこともあり、もう少し違った処方、たとえば、ルーランの少量とエビリファイの少量の組み合わせとかに変更しようかと思い始めていた。
ところが、彼女がそろそろ仕事をしたいと言い出したのである。見たところ、あまりにエネルギーがなく、僕は無理ではないかと思った。彼女によれば、日頃、苦しさ、不安とかそういう気持ちは全然ないのだという。いわゆるエビリファイっぽい、「平坦さ」である。これは良いかどうかというと非常に微妙なのだが、本人が働きたいというくらいなので、そう悪い状態ともいえない。僕が不満なだけで。よく考えると、以前に見られた人格障害っぽい状態や、解離などが全然みられなくなっていた。統合失調症の陰性症状のみが残遺している感じなのである。症状が非常に単純化していた。これはよくも悪くも、抗精神病薬治療をしたからだと思う。
彼女は就職活動を始め、ある会社の仕事を見つけてきていた。仕事内容はコンピュータ関係で、マイクロソフトオフィースのファイルに入力をするだけなのだという。本人に、オフィースを使ったことがあるのかどうか聞いてみたら、それは大丈夫なんだと。
結局、その後ずっと仕事は続けている。僕が思っていたより仕事はできたのである。もう仕事を始めてしまったので、今、処方変更するのはあまりにもという感じだ。ルーランを処方するタイミングを失ってしまった。あと、どうもエビリファイは3mgでも良かったような感じがしてならない。いずれも仕事をしている状況では変更するのはリスクが高いと思った。
彼女を治療した感想だけど、母親というのはすごいよ。あれほど動揺しているのに、24時間自分が見るって言ってるんだもん。一時、母親にも僕は薬を出していたほどなのだ。これは元MRさんのブログにも書いたことだけど、昔に比べ子供の価値みたいなものが上がっているんだろうね。
母親にしても父親にしても、ああいう態度(以前、きちんと薬を飲ませなかったことや、その後の慌てふためきぶり)は、子供がかわいいことがすべてと思うのである。僕は子供がないので、心をこめてそう感じているわけではきっとないと思うのだけど。
というか、所詮子供のいない僕には、本当の親の気持ちがわからないのではないかと内心思っている。
後記
通院当初、よく外来の床に座り込んで、「誰も私の気持ちをわかってくれない」と泣いていた。外来治療にしろ、あるいは入院にしろ、本人が望んでしたことは全然なかった。この疾患はそういう面がある。いつも、外来の看護師さんがなだめながら、話を聞いてやっていた。若い女性患者で、こういう風に病棟の隅で(彼女は外来だけど)さめざめと泣いているような子は、最終的に良くなる人が多いと感じる。これは過去のエントリでも書いたことがある。
彼女の場合、治療がすごくうまくいったとは思っていないのよね。なぜかというと、いろいろとやり残しているような気がしているから。ただ最低限の結果は確保したと思っているだけ。僕は、このようにもう発病後5年も経っている人は限界があるような気もしているのだけど、人によってはそんなこともモノともせずにかなり良くなる人もいるのはいるので、なんとなく結果に不満なのである。治療者として、徹底的に検証していないことへの不満みたいなものであろう。
まさか、あのタイミングで仕事に行くといい始めるとは・・といった感じだ。あと、エビリファイの人工的な印象。あれはそうなる人とそうならない人がいるようだけど、前者のタイプは、その人らしさが出ていないと感じる。彼女は、ああいうよく言えば「お淑やか」、悪く言えば「活気がない」子ではないと思っている。このまま次第に変化して、元の彼女に戻れば良いのだけど、そうならない場合は、いずれ薬物治療も考えないといけないのかもしれない。単純にエビリファイを3mgだけにしてそうなるなら、それに越したことはないのだけど、そんなに簡単なものではないだろうし・・
それと、僕はこのような若い人に「自分は統合失調症だから」とか言ってほしくない。この気持ちは、精神科医でないとなかなかわかってもらえないと思うが。
の部分だけど、本人がそういう風に言ってるようでは、心に明るい未来が描けないからというのがある。僕は高校2年頃入院していた時に、将来の不安が相当にあったし、たぶん今も心の傷になっていると思う。そういう気持ちもこめられている。たぶんこのブログをずっと読んでいる人には、僕のこの気持ちがわかってくれると思っている。
最後にまた同じことを言うけど、統合失調症でなくても彼女以上に苦しんでいる人はずいぶんいると思っている。精神科は診断名ではないのである。
参考
プレコックス感はなくなるのか?
1人目女性患者さんについて
3人目の女性患者
薬物治療と寛解のレベルについて
1名はルーランとセロクエルの併用。1人はエビリファイとセロクエルの併用。1名がエビリファイとプロピタンの併用であり、誰1人として単剤治療ではない。量はかなり少ないけど。(エビリファイは6mg以下、セロクエルは150mg以下)今は、全員幻覚妄想はみられない。
3人のうち、前者2人は明らかにプレコックス感が残っている。3人目は全然それがないので、たぶん、3人目の子は統合失調症ではないのだろうと思う。僕が、外来担当の看護師さんたちにそのことを話したら、誰にもその見分けがつかないのだそうだ。「え?、先生はわかりますか?」といった具合。「誰も気がつかないなら心配しなくてもいいね。でも僕は非常に気になる」
これは、3人の女性患者の概略で、「プレコックス感はなくなるのか?」から再掲している。
今回は、この2人目の女性患者について。
2人目の女性患者さんは、1人目と3人目と少し治療のいきさつが異なる。1人目と3人目の患者さんはほぼ初診時から治療を始めたのに比べ、この患者さんは、初診時に既に発病後5年は経過していた。まだ本当に若いのだが。
最初は知り合いのクリニックから、病状が悪いので入院させてほしいといった感じだったように思う。初診時は軽度の困惑、亜昏迷状態で、油断すると何をするかわからないような感じだった。ちょっと人格障害っぽい症状もあって、表面的な主訴も不安、恐怖感くらいなのだが、一見して、診断は統合失調症で間違いなかった。
その日はできれば入院させたかったが入院ベッドがなく、しかも家族、特に母親も入院はさせたくない気持ちが強いようであった。その日、入院ベッドが空いていたとしても入院は難しかったかもしれない。しかし、病状的には油断がならないのである。実際、裸足で外に出て行ったり、外で遊んでいた子供に何かしようとしたため、その子供の母親が心配して警察に連絡して保護されかかったこともある。何かあってからはもう遅い。
母親は、「典型的な患者さんの母親タイプ」で、何をしてよいかわからず、オロオロと泣き出す始末。治療させたい気持ちと、自分のところへ子供をおいておきたい気持ちが錯綜しており、何も決断できない状況だった。
この患者さんは発病以降、しっかりと治療している期間があまりなかった。入院歴がなくクリニックでの治療だけだった。僕は時々思うが、クリニックだと、入院治療が良いかどうか微妙なケースで紹介するのはややしずらいのもあり、結局外来治療で経過観察してしまうことが多くなってしまうような気がしている。こういうのは、あまり予後は良くない。人格障害ならば、薬を使わないでもそうは変わらないといえるかもしれないけど、統合失調症ならやはり薬物療法を行わないと。
まず薬物療法を始めて、結果的にどの薬もあわなくて、デパスだけで様子をみているのと、最初からそういう試みをせず、いい加減に睡眠薬とかワイパックスくらいで経過観察しているのでは全然意味が違う。そういう風な経過になったのは、前医が努力していないというより、家族がよくわかっていないことが大きかった。しかも不思議なことに告知も受けているようなのである。本人が「私は統合失調症だから」などと言っていたから。
うまいぐあいに家族全員の疾患に対する否認が生じていた結果である。こういうのを見ても、告知が必ずしも治療のモチベーションをあげないのがよくわかる。また、統合失調症などといわれると、こういう一見、神経症~人格障害っぽくみえる患者の家族はかえって診断に疑いを持つこともある。
それと、僕はこのような若い人に「自分は統合失調症だから」とか言ってほしくない。この気持ちは、精神科医でないとなかなかわかってもらえないと思うが。
結局、その日、今までしっかり治療をしてこなかったことに関して、家族を叱責した。というのは、危うく措置入院で入院させられていた可能性もあったからである。
でも、これは性格的なものなんだけど、僕は強く激しい感じでは人を叱れないのだ。その日はセレネースを注射して帰宅してもらった。母親が24時間自分が見ておくと言ったこともある。翌日に来てもらいまたセレネースを注射した。その日、どうしても入院して治療しないと難しいように感じたので、友人の病院に紹介状を書いた。しかし、その病院を見学してきただけで、再びうちの病院に戻ってきた。雰囲気が嫌なんだと。それは本人だけでなく、母親も同じことを言っていた。うちの病院なら入院しても良いと言い、ベッドが空くまで待つという。
薬物療法はセロクエルを選択した。こういう人格障害(それも多重人格、解離を伴うケース)はセロクエルは悪くはないように見える。しかし女性なので、これだけで治療するのはちょっと長期的には肥満が気になる。この患者さんの場合、セレネースを短い期間静注ないし筋注することはほとんど問題がなかった。このよう状態では高力価の薬物も体が受け止めてくれるし、その副作用のために後の経過に重大な影響を及ぼすことも滅多にない。
ちょっと驚いたのは、セロクエルで眠さの副作用がわりあい出ること。200mg服用すると、眠さのあまりほとんど活動できないような感じなのだ。しかし、ほかの副作用がほとんどないし、勝手に家を出て行ってしまうことがなくなったので、僕はある程度セロクエルの効果に満足した。まあ長期は無理とは思ったけどね。
結局、そのような感じで外来で治療しているうちにベッドが空いた。家族と話し合って入院はさせたものの、すぐに本人が帰りたいと言って聞かないし、そういう電話を母親に何度もするような感じなので本当に短期間で退院させた。そんな風にしてまで入院させておく価値がないと思ったのと、初診時に比べ落ち着きつつあったのが主な理由だ。母親も、娘がそんな感じだと情緒不安定になり泣き出すような状態だったのもある。こういう場合は、子供と母親を1セットで見ないといけない。
実は、1人目の女性患者さんと年齢がほとんど変わらないのである。この子のほうがずいぶんと子供っぽい。まあ性格もあるのだろうが、思春期に既に発病しているのが大きな違いだと感じた。
彼女の母親も父親も、なぜかわりあい僕を信頼してくれたのであった。母親は、いつもオロオロしているような感じだったが、父親は優しい人であった。彼女も、あのような両親だと幸せだと思うよ。そのうち、外来だけど思い切ってエビリファイを処方すべきと思うようになった。理由は、セロクエルでは眠さが解消せず、このままでは引きこもり状態が続くだけと思ったのがある。
エビリファイは少量の1.5mgから処方した。エビリファイはすぐに彼女の表情を明るくさせ、一見、眠さをこちらに感じさせないような感じになった。そうしてセロクエルを減量したのである。最初にセロクエルを増量しただけで、他覚的には異常体験や行動異常のような症状がなくなった。しかし見た目にぱっとしなかったのが、エビリファイを追加した理由であった。最初、エビリファイを追加した時、本人に感想を聞いてみた。
「不安感が減った。胸がすっきりした」
などと言っていたので、エビリファイはセロクエルより陽性症状に効果的だったのがわかる。こういう恐怖~不安感は本人は詳しく語らないけど、陽性症状的な所見なんだと思う。
エビリファイを3mgにするか6mgまで増やすか相当に迷った。結局、単剤治療に含みを持たせるため6mgまで増やすことにした。セロクエルは最高250mgくらいまで増やしたが、徐々に減量し80mgくらいまで減量。
エビリファイ 6mg
セロクエル 80mg
こんな感じの処方で様子をみていたのである。最初は毎日来てもらっていたが、短い入院以後は1週間ごとに通院してもらった。家庭療養では母親が仕事にいけるほどに独りで置いておいても心配ないくらいに回復していた。
日中に何をしているか聞くと、テレビを観ているか、本を読んでいるか、寝ているのである。これは精神科医からするとあまり喜べない。しかしあれほどの陽性症状があった経過を考慮すると、このように無気力・不活発の状態が数ヶ月続いてもおかしくない。治癒(寛解)に向かっていると考えることもできる。
僕は、もう細かいことを考えずに、セロクエルを40mgくらいまで減量し放置した。そうして2週間ごとに通院してもらうようにしたのである。1週間ごとだとあまりにも変化がないので、こちらが焦るのもある。まあ、これは気持ちの問題だ。
エビリファイ 6mg
セロクエル 40mg
この処方で、抗不安薬も眠剤も必要なかった。当時、僕はこういう風にしばらく療養していると次第に元気になってくるのではないかと思っていた。少なくとも、旧来の薬ならこの状態ならそういう展開になりやすいのがある。しかし今回の場合、エビリファイなのである。
エビリファイは彼女に限らずたくさんの患者さんに処方していたので、たまに、このようなエネルギーを喪失した無気力状態に至る人がいることがだんだんわかってきていた。そういうこともあり、もう少し違った処方、たとえば、ルーランの少量とエビリファイの少量の組み合わせとかに変更しようかと思い始めていた。
ところが、彼女がそろそろ仕事をしたいと言い出したのである。見たところ、あまりにエネルギーがなく、僕は無理ではないかと思った。彼女によれば、日頃、苦しさ、不安とかそういう気持ちは全然ないのだという。いわゆるエビリファイっぽい、「平坦さ」である。これは良いかどうかというと非常に微妙なのだが、本人が働きたいというくらいなので、そう悪い状態ともいえない。僕が不満なだけで。よく考えると、以前に見られた人格障害っぽい状態や、解離などが全然みられなくなっていた。統合失調症の陰性症状のみが残遺している感じなのである。症状が非常に単純化していた。これはよくも悪くも、抗精神病薬治療をしたからだと思う。
彼女は就職活動を始め、ある会社の仕事を見つけてきていた。仕事内容はコンピュータ関係で、マイクロソフトオフィースのファイルに入力をするだけなのだという。本人に、オフィースを使ったことがあるのかどうか聞いてみたら、それは大丈夫なんだと。
結局、その後ずっと仕事は続けている。僕が思っていたより仕事はできたのである。もう仕事を始めてしまったので、今、処方変更するのはあまりにもという感じだ。ルーランを処方するタイミングを失ってしまった。あと、どうもエビリファイは3mgでも良かったような感じがしてならない。いずれも仕事をしている状況では変更するのはリスクが高いと思った。
彼女を治療した感想だけど、母親というのはすごいよ。あれほど動揺しているのに、24時間自分が見るって言ってるんだもん。一時、母親にも僕は薬を出していたほどなのだ。これは元MRさんのブログにも書いたことだけど、昔に比べ子供の価値みたいなものが上がっているんだろうね。
母親にしても父親にしても、ああいう態度(以前、きちんと薬を飲ませなかったことや、その後の慌てふためきぶり)は、子供がかわいいことがすべてと思うのである。僕は子供がないので、心をこめてそう感じているわけではきっとないと思うのだけど。
というか、所詮子供のいない僕には、本当の親の気持ちがわからないのではないかと内心思っている。
後記
通院当初、よく外来の床に座り込んで、「誰も私の気持ちをわかってくれない」と泣いていた。外来治療にしろ、あるいは入院にしろ、本人が望んでしたことは全然なかった。この疾患はそういう面がある。いつも、外来の看護師さんがなだめながら、話を聞いてやっていた。若い女性患者で、こういう風に病棟の隅で(彼女は外来だけど)さめざめと泣いているような子は、最終的に良くなる人が多いと感じる。これは過去のエントリでも書いたことがある。
彼女の場合、治療がすごくうまくいったとは思っていないのよね。なぜかというと、いろいろとやり残しているような気がしているから。ただ最低限の結果は確保したと思っているだけ。僕は、このようにもう発病後5年も経っている人は限界があるような気もしているのだけど、人によってはそんなこともモノともせずにかなり良くなる人もいるのはいるので、なんとなく結果に不満なのである。治療者として、徹底的に検証していないことへの不満みたいなものであろう。
まさか、あのタイミングで仕事に行くといい始めるとは・・といった感じだ。あと、エビリファイの人工的な印象。あれはそうなる人とそうならない人がいるようだけど、前者のタイプは、その人らしさが出ていないと感じる。彼女は、ああいうよく言えば「お淑やか」、悪く言えば「活気がない」子ではないと思っている。このまま次第に変化して、元の彼女に戻れば良いのだけど、そうならない場合は、いずれ薬物治療も考えないといけないのかもしれない。単純にエビリファイを3mgだけにしてそうなるなら、それに越したことはないのだけど、そんなに簡単なものではないだろうし・・
それと、僕はこのような若い人に「自分は統合失調症だから」とか言ってほしくない。この気持ちは、精神科医でないとなかなかわかってもらえないと思うが。
の部分だけど、本人がそういう風に言ってるようでは、心に明るい未来が描けないからというのがある。僕は高校2年頃入院していた時に、将来の不安が相当にあったし、たぶん今も心の傷になっていると思う。そういう気持ちもこめられている。たぶんこのブログをずっと読んでいる人には、僕のこの気持ちがわかってくれると思っている。
最後にまた同じことを言うけど、統合失調症でなくても彼女以上に苦しんでいる人はずいぶんいると思っている。精神科は診断名ではないのである。
参考
プレコックス感はなくなるのか?
1人目女性患者さんについて
3人目の女性患者
薬物治療と寛解のレベルについて