精神科患者さんのう歯 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科患者さんのう歯

昨年10月頃、国立病院から女性患者が転院してきた。うちの病院の近くに自宅があり、理由はそれだけだった。高校生くらいから発病し長期入院。退院していた時期もたいして長くない。僕より2歳下でまだ若いのに、前歯が全然ないのである。歯根はあるようですべて根元から歯が切りとられているように見える。こんなことを書くと彼女は知的発達障害でもあるように思うかもしれないが、県内で最も難関の高校を卒業しているのである。

精神科に長く入院している人で、う歯のために歯を失う人がいる。病状のため歯を磨かないような人もいるが、普通は看護師が歯磨きは誘導している。薬物による口渇などの影響も大きい。唾液が出にくくなると、口腔内の自律的な洗浄みたいなものがうまくいかなくなるのである。こうなると口腔内の細菌が繁殖しやすい。歯肉の毛細血管の循環も悪くなっているのかもしれない。それでも、外来の患者さんは入院患者さんほど歯を失わないように見えるので、病状もかなり関係があると思われる。

その患者さんの転院時の抗精神病薬はトロペロン18mg。国立病院などから転院する場合、いくらなんでもリスパダールくらいは一度は試してあると思うので、こういう処方を見ると、非定型では難しいのでは?と思ってしまう。先入観だけど。リスパダールとジプレキサは避けた。少し肥満気味なのもあった。

最初、やはりセロクエルが無難なので、少しずつ入れ替えてみた。セロクエルが次第に増え、トロペロンが減ると彼女は「テレビが観られるようになりました」と言った。それまでは長い時間は観られなかったらしい。これはアカシジアのようなものが減ったのだと思う。ちょうどトロペロン3mg、セロクエル300mgくらいになった時、本人に感想を聞いてみたら、かなり体が楽になったけど、立ちくらみが酷いという。どうもセロクエルに強くない。メトリジンなどを入れてみたが、陰性症状への効果がいまいちだし、日中、寝ている時間が多いので、逆にトロペロン6mg、セロクエル100mgにしてみた。しかし、この量でもセロクエルの副作用が出てしまう。

結局、年末にセロクエルを諦めた。その後、セロクエル、トロペロンを維持し、エビリファイを3mgから始めたところ、急に様子が変わってきたのである。現在、エビリファイ3mg、セロクエル100mg、トロペロン6mgになっている。この患者さん、今は目がぱっちり開いている。よく考えると、エビリファイは目をぱっちり開けさせると思う。ある日、病室に行ってみると、うっすら化粧をしているのがわかった。簡単なアイシャドーだけだけど。

僕は、その患者さんに歯の治療をしに行ってほしいのだ。先日、元気になったら歯科に行くように勧めた。入院した頃、そんな風に言ったら、うかない返事で行く気が全然ないように見えた。でもその時は、はっきり歯科治療に行きたいと言ったのである。もう少ししたら、エビリファイを6~9mgまで増やし、トロペロン3mgの併用で行くつもりでいる。僕は、最終的にエビリファイ6mgだけでいけそうな気がしている。もしトロペロン3mgの併用が必要だったとしても誤差みたいなもんだ。

薄い化粧をした延長線上に、歯の治療をすることがあるのだと思う。