向精神薬の薬価について(セロクエル その5)
このブログでは、しばしば薬価の話が出てくる。このブログの読者は、薬価はあまり大きな問題ではないと思っている人がきっと多いだろう。現在、自立支援法により医療費の補助があるので働いている人でも1割程度の負担で済むからだ。しかし非定型抗精神病薬やSSRIの薬価の高さが、精神科の処方に影響を及ぼしていると思うのである。うちの県でも統合失調症を診たら、原則的に(薬価が安い)リスパダールかルーランで治療を始めるようにしている病院もある。ある病院では、セロクエルが導入されるまで2年以上かかっている。セロクエルの薬価が高すぎるからだ。エビリファイも導入してかなり処方が伸びている病院と、導入すらしていない病院がある。もう少し評判を確かめてから、導入を決めようと考えているのももちろんある。新薬が発売されたら、原則的に1年は様子を見て導入しない病院もあるようだ。まぁこれは少数だけど。なぜこのようなことになるのかはいろいろ原因がある。
1つは精神科療養病棟の存在。精神科の療養病棟では、マルメと呼ばれる、いくら薬物治療を行おうが診療報酬が変わらない病棟がある。この病棟では精神科専門治療、例えば作業療法などは算入できるが、薬に関してはいくら使おうと算入できない。療養病棟では、なるだけ薬が少ない入院患者が望ましい。なぜなら、使っても診療報酬が変わらないからだ。うちの病院では病棟数が少ないので、うまく振り分けられず、療養病棟でもセロクエル600mgとかジプレキサ20mgの人がいる。しかも単剤ではないので、更に費用がかかっている。こういうのは本当は経営的には良くはない。おそらく全国的に療養病棟では、とりわけセロクエルは相当に使い辛いのではないかと思われる。セロクエルの項で、もし薬価が今の半分なら、アステラス製薬はかえって儲かったのではないかと書いていたのはこのような理由だ。もちろん個々の精神科医師はあまり考えずに処方するので、療養病棟でセロクエルやジプレキサが使われないわけではない。しかしこのようなことが影響して、上記のように原則リスパダールかルーランで治療を開始するとか、なかなか新薬が病院に導入されないということが起こる。また、新薬はのきなみ高価なので導入するだけでかなりの額の在庫になる。(うちの病院の薬品庫に眠る薬の総額は大変な額である) 導入を遅らせるのは、そんないわば遊んだ形のお金を減らしたい意図もあるのである。
セロクエルは、県により処方状況にかなり偏りがあるらしい。多分、セロクエルが皆に周知されていないということより、高価なのが大きな原因であるような気がしている。最高用量の治療費用はセロクエルとジプレキサはそう変わりがない。しかし日本人の場合、ジプレキサは5mg~10mgで良好な治療状態に至る人が多いのに対し、セロクエルは容易に600mgになってしまう。同じような薬価でもセロクエルとジプレキサは少し違うと思うのである。
SSRIはどうであろうか?
SSRIで特にパキシルはかなり高価な抗うつ剤である。しかし精神科療養病棟では、パキシルを服用している患者さんが少ないのであまり問題にならない。精神科療養病棟は、もともと慢性の統合失調症の患者さんの入院を想定しているので抗うつ剤の服用比率が低い。パキシルは最も処方される場所が外来なので、薬価の高さがあまり問題にならないのである。