
出くわす現象の一つ一つが珍しく、亦興味津々たるものが有る。
こうして、幽界に再生した青年は堰(せき)を切った様に語ってくれたのである。
「霊界から現界の人間に何らかの影響を及ぼそうとする為の方法として、次の三種類が有るとお考えくだされば結構です。
其の一つは、霊界から直接霊波を送り続けている場合です。
例えば、地獄第一層の渡世人風の男や有名寺院の僧侶。更に、或る産婦人科の医者や孤独な老婆等侘びしい孤房の世界に悶々と苦悩し続けている地獄に堕ちた住人など。(※以前のブログ参照)
また、地獄第二層に繰り返す《前世因縁に纏わる、確執の家族等何れも霊界の地獄に堕ちた一つ穴の狢(むじな)の中で蠢く絵模様の醜悪な姿は、何時果つるとも無き我執の繰り返しを何千年と続けて行く。
其の内に現世人間に悪影響を及ぼす怨霊の権化と成って、"霊波は何時しか念波を作り"、観念を自由に操作する力を持ち始める》のです。
つまり、《念波を送り続ける事に因って己れの恨みを果たす》。
常に悪因縁を作り、悪業を燃やし続けて思いを果たす場合…之が『テレパシーに拠る現界への影響力の第一の方法』と成ります。
第二の方法は、《実際に霊魂として、人間の背後に憑依し直接影響を与える場合》の其れです。
例えば、地獄第二層の《淫祠邪教に血迷った祈祷師や占い師に至っては、憑依霊の虜と成って、人格無き低級動物霊か魔界の眷族に組み入れられて、其れから抜け出す事が出来なく成っている奴隷と化した地獄の住人達》。
然し、魔界からの命令が下れば、容赦無く悪業を積み重ね、魂が摩滅する迄溶(と)き解(ほぐ)される事の無い哀れな下僕(しもべ)等は邪悪な背後霊に憑依されて、《二度と高級な魂の世界へは帰れない…強烈な悪霊の憑依が第二の方法》です。
第三の方法は、先程の小高い丘に屯していた《魑魅魍魎の類が脱ぎ捨てられた人霊の幽体を着て、物質界に直接近付き動物的欲望を満たす事に汲々とする場合》など。
《泥酔や遊興的性行為、賭博や麻薬、犯罪や自殺行為等、悪鬼の輩が人間に最も近い幽体を持って、人の観念形態や衝動に駆られる行為を為す。
組合斗争や学生運動の類にも、確かに影響を与えて、其の欲望を果たす…之が第三の方法》として、何れも直接人間界に悪影響を現す地獄からの使者と考えて差し支えありません」
此処に至っては、霊界と幽界の相違を更に深く知りたいと思い始めた。
肩を並べ、青年の足取りに歩調を合わせ乍ら霧に包まれた幽界の細い暗い道を歩いていた。
「霊界と幽界は、何処が違うのですか…更に人間界との接点は…」
青年は急ぎ早やに歩み乍ら、私の質問に親切に答えてくれた。
「幽界から眺めた人間の世界は、霊界の其れよりも遥かに肉感的で、一層現実的な感じが仕舞す。
ホレッ御覧ください。貴方の直ぐ側に人間が歩いている…周囲の情況を良く御覧ください。
此処が弁護士の死亡した病院です」
霧の出た夕方、ボンヤリと霞に包まれた靄(もや)の山間に、幽かに見える谷間のホテル…そんな光景の中に、確かに正面玄関への通路と見えし、灯の入った門柱が二本…虚ろではあるが、白く見えて来た。
青年は此れが弁護士の死亡した病院だと語った。
建物は薄ぼんやりと、でも心を鎮めて見ると、外観が朧気(おぼろげ)ながら観える。
恰も《磨り硝子の窓を通して見詰めた様に実感が籠り立体的にも捉える事が出来る》。
私の側を一人の白衣の看護婦らしき女が擦れ違った。
彼女の《動作は勿論の事、表情や況して心の動き迄捉える事が出来る》。
風止(ふと)何かの気配を感じ取った様に、私の方を振り向いた。
然し、全く無視して通り過ぎて行った。
「御覧の様に、生前の人間同士の感情の交流と殆ど大差はありません。
只、肉体を持つ人間から観れば、幽体は陽炎(かげろう)の様なものですから、看護婦は確かに貴方の気配を感じ取っていましたが、勿論、彼女の眼には見えていません。
ところが、幽体の眼からは人間の世界は人の姿も建物もほぼ見当が付くのがお解りに成りましたか。
幽体は、矢張り肉体に一番近い…寧ろ物理的には重量感を感ずると言った所でしょう。
死後肉体から分離した幽体を心霊科学の世界で、《エーテル体》等と呼び、降霊実験等に使われる物理的霊媒の体内から出るエクトプラズマ(霊素)等と共に、今後の良識有る科学者達の手に因って一日も早く解明される事が待たれています。
《霊界から眺めた人間界は、幽界の其れと比べて、寧ろ精神的で観念的と成ります》。
其の意味で、霊界からの霊波は人間には届き難いとも言えます。
然し、《人間界からも常に、其の人の持つ『人格波(霊波)』を発信していますから、之に乗って直接影響を与える事は決して至難な技では無い》。
つまり、テレビの発信装置がチャンネルのサイクルを送る…此の《人格波に乗って、相応しき霊波を霊界から送信する。
そして、テレビ即ち地上人間が之を受信する。
此れが殆どの人間の命運を決定している》。
ブラウン管が捉えた映像が、其の人の一生の物語…ドラマ…の決定的瞬間と成る。
《良い場合も悪い場合も、意識するしないは別として、霊界と人間界との交流電波の合作と考えれば良い」
…と青年は一気に霊界が人間界に如何に大きな影響を及ぼしているかと言う事を語り上げた。
―以下つづく―