『奥宮 阿蘇山神社』の神業は、第二回目の一の宮神業巡拝のスタートとして参拝成さられた、中化神龍師に執っては重要な御祀りの一つでは有ったが、我々地球に生きる全ての生命体に執っても限り無く重要な神山の神祀りであったのでした。


我々人間が求めて止まなかった神霊界の秘密の一端が解き明かされた神業でもあった…と、記録を残す事を神に御許し戴けた事に深く感謝し、尽くせぬ慶びを以て拝読させて戴いた。

稲津先生は筆の滴に、此の様に認めて居られる…

往古…此の美しい日本に、富士山を凌ぐ巨大な峻峰が在った。

其れは、想像を越す悠大で神秘な霊峰…恰も、此の地球上に生命を宿した原始の彼方にあって、堂々と聳え立つ山塊のみが、雲を突いて九州全土を抱合するかの如き有史以前の麗容であった…《古期阿蘇峻峰の霊姿(れいし)》である。

然も、中央火口丘から立ち昇る噴煙は、天上高く舞昇り、絶えず轟々たる鳴動を響動(どよも)して一山を揺り動かしていた。

猛煙は夙(つと)に天を覆い、硫気(りゅうき)噴騰(ふんとう)して、怖ろしい地鳴りは止まず、九州の全土が、巨大な阿蘇の山鳴りに震え、散り敷く霾(よな)…火山灰砂…に埋もれていた。


或る時…此の想像を絶する悠大な霊峰が、大爆発を起こして吹き飛んだ。

聳え立つ山塊が一瞬にして、地を蹴立て天を焦がしたのである。

流出する熱雲状の溶岩が地上高く噴き上げ、岩漿(がんしょう)を押し流し、巨大なカルデラ火山と成り、直径二百粁(キロメートル)にも及ぶ岩石流に因って九州の三分の二が覆われて行った。


《地が裂け、巨大なエネルギーが天に向けて噴出する時、天は是に呼応して御神霊を降らせ給う…。

正に天地創造の其の時、此の地球上に生命を宿す瞬間が顕れたのである》。


此の劇的な生命の誕生。

一説では…地球は四十六億年程前に誕生し、其の後、約十億年に亘る化学進化を経て、初めての生命が誕生したものであると信じられている。

然し、原始地球上での十億年に亘る化学進化の出来事を示す、地質学的な証拠は完全に消失しており、生命誕生の起源は全く知る由も無い…と、科学者達は模索するのではあるが…。

《実に膨大なエネルギーが地軸をも揺すらんとして、地上高く噴き上げた其の時、有機物が御神霊の感応を得て、最も原始的な『生命子』の如きものを生み出した》。

巨大な阿蘇が地上から吹き消えた瞬間に、生物は自己再生能力を以て再生産され始めたものであろうか…。

古事記に記された天地創造の模様は次の様に語られている。


"天地(あめつち)の初発(はじめ)の時、高天原に成りませる神の名(みな)は天之御中主神、次に高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、次に神産巣日神(かみむすびのかみ)。此の三柱の神は並(みな)独神(ひとりがみ)成り坐(ま)して身を隠したまひき。"


…と。

天と地とが未だ分かれない混沌の時、宇宙の大生命を司られる天之御中主神の元に、此の大生命の生成発展の作能が発現して、両産巣日神が活動を御始めに成って、軈て八百萬神々を御生みに成ったと、《むすびの神》に対する、我々の祖先達の信仰が、此の大阿蘇を示して語り継いで来たものなのか…風止(ふと)そう思いたく成る幽賞(ゆうしょう)なのである。


《峻峰阿蘇は天界に通ずる道》。

粛々として登頂を試みる師の一門七名に執って、此れから始まる全国一の宮巡拝の門出と成る阿蘇山である。

各々、神々に謁(えっ)する喜びを胸中に秘めて、師と共に在る嬉しさを押し殺している。

神事遂行前の其れは筆舌に尽くし難い、神々に触れ様とする者の清亮(せいりょう)なる緊張が昂ぶっているからである。


阿蘇に立つ…。

眼下に見下ろす裾野は、果てしも無く拡がりを見せて、広漠たる展観に酔う。

此の日、降りしきる秋雨は、神々の峰を霧の彼方に隠さしめて、白煙のみが濛々と辺りを覆っていた。もう直ぐ其処が中岳の火口丘である。

其の火口を目の当たりにして、神々を拝する遙拝所が有る。

『奥宮阿蘇山神社』である。

一切が静寂である。

御社の底から地鳴りがする…そんな感慨の神社に一同が額付く事に成った。


古来、此の火口丘は『神霊池(かみのいけ)』と称せられ神格化されて来た。


      ―以下つづく―